気分は憂鬱




二日後、リボーンたちのライブを見に行った綱吉は、憂鬱な気分で学校に来ていた。いつも楽しい気分ではないが、今回は憂鬱さもプラスされている。

「はぁ…どうしよ」

ため息をついて呟く綱吉の声は、休み時間で騒がしいクラスの誰にも届かない。もう一度、ため息をついて机へと伏せた。
窓からは雲一つない晴れ渡った空が見える。グラウンドでは他のクラスの生徒が元気よく、体育をしている。自分とは違っていて、益々憂鬱な気分になる綱吉だった。







何故こんなにも綱吉が憂鬱な気分でいるか、それはライブ後の話だった。

「すごかったなぁ…」

綱吉にとってはいつの間にか独りで立ち尽くしており、周りには誰もいなかった。帰ろうと背を向けたとき、誰かにか声を掛けられた。

「どうだった?」

「え…?」

振り返り後ろを見ると、そこにはボーカルがいた。ライブ衣装のまま、汗を流して立っていた。

「どうだった?」

もう一度同じ事を聞くリボーンに、綱吉はたどたどしく話し出す。

「す、すごかったです。想像してたのと、全然違いました」

「なら入るよな?」

「はい?」

「決まりだぞ。お前はボーカルになる」

「え、あ、ちょ…」

リボーンを呼び止めようと必死に言葉を探す綱吉だが、勘違い男は聞く耳を持たず歩いていってしまう。そのまま綱吉の心の叫びには気づかず、部屋へと入っていった。

「どうしよ…」

どうすることも出来ないまま、綱吉は立ち尽くしていた。




何とか家へと帰りついた綱吉は一人部屋に閉じこもって考える。しかし、考えることをしない綱吉にとって至難の業だった。なにも思いつかない。これが答えだ。

「それじゃダメなのにー!」

歌いたい。それは確かに思ったことはある。何度も。あんなことがなければ、自分は今でも幸せに音楽の世界の住人になっていた。

「でも、無理っ!」

どうしても男が怖い。自分も男だが、それでも怖いものは怖い。あのバンドへと入ることは必然的に男と接することになる。それを自分が耐え切れる自信がない。

「ってか!あの人、歌上手いんだから歌っとけよ!!」

仮に自分が歌うことを想像しても、無理だと思った。あの美声には及ばないと綱吉は思う。ルックスにも、背丈にも。自分がコンプレックスと思っているものは全てあの人は持っていた。
わざわざ自分が歌う要素は何処にもない。しかし、どう断ればいいのかも分からなかった。






「うわー!どうすりゃいいのさー!」

回想に耽っていた綱吉が出した大声にクラス全員が振り返る。普段大人しい奴がいきなり大声を出すと、人は不思議がるもんだ。視線に慌てて口を塞ぐ綱吉に、クラスの皆も何事もなかったかのように元の雑談に戻る。

「はぁ…わかんない」

不貞腐れたように机にのべーっと広がる綱吉には、リボーンの勘違いを気づかせる術を持っていない。放課後、音楽室へと向かうことだけは決めたが、なんと言うかが決まらない。

時間は刻一刻と迫ってくる。
















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