ライブ




「ほ、本当に開く…とはな。コラ」

「たった一週間でここまで準備するのは凄いけど、振り回される僕達がいるって気づいてないのかな。あのバカは」

「…同意見です」

綱吉に見に来いと告げた日から、一週間。急遽開くことになったライブに向けて、急ピッチで事を進めていった。会場の予約に、練習。新曲を作っての練習だったため、この三人でなければ無謀な話だった。
そのため、コロネロは普段のトレーニングが全く出来なくなり、マーモンは愛しの巻きガエルのファンタズマとの散歩が出来なくなり、スカルはスタントマンになるための夢を叶えるための訓練が出来なくなった。
三人のやりたいことはすべて練習の時間で消えてしまった。

「ふっ、ふっーん♪」

鼻歌まじりに歌うこのバカを何度刺し殺したいと思ったことか。普段はちっとも意見の合わない三人が思ったことである。

「先輩、大丈夫ですか?」

綱吉が来るとは限らないのに、リボーンは来ることを確信している。上機嫌なバカを心配して(機嫌を損ねたらとばっちりがくるため)、スカルは声を掛ける。

「あぁ、気分がよすぎて幸せだぞ」

なら、幸せなまま地獄へ堕ちろ…と三人が思ったことを知ってか知らずか、るんるん気分でリボーンはベースの調子を見ていた。





「ど、どうしよう…。来ちゃった」

綱吉はライブ会場に来て、一分も経たないうちに後悔し始めていた。自分には場違いな気がしてならない。
人がたくさんいる。それは素晴らしいことだと思う。だが、この場にいる人は女性や女の子など、生物学上、女とされている方々だけだった。
モデル並みの長身痩躯、ルックスはプロも劣るほど。女に人気があって当たり前だった。

「俺、おかしいよね。絶対いるの間違いだよね」

綱吉に痛い視線がいくつも突き刺さる。身体を丸めて、耐えているが防御しきれていない。

「ねぇ、あの子」

「うんうん」

周囲の女性の話し声が更に綱吉を居づらくさせる。綱吉には、自分が邪魔でいなくなってほしいと暗に言われているような気がする。しかし、それは間違いだったりする。

見に来ている女性達は最初こそは、変だなと思っていた。なんで男の子がこんなとこにいるんだろう…と。でも、綱吉の様子を見ているうちに可愛く思えてきた。びくびくおどおどしている姿が、なんとも愛らしく思わせる。

だが、鈍感な綱吉がそれに気づくことはなかった。





「俺、帰っていいよね?来たことは来たんだし。うんうん」

誰に聞くわけでもなしに、独り言を言いながら自己完結させて、綱吉は出口へ向かう。まだ、一曲も聴いてなどいないのに。

「おまたせして悪かったな。俺たちのライブを始めるぞ!」

出口の扉に手が届きそうというところで、ライブ開始の言葉が会場全体に響き渡った。綱吉が振り返り、ステージを見た。眩いスポットライトを浴びているリボーンが心地のよい低音ボイスで女性達を魅了していた。

「始まっちゃった…」

ポツリと呟き綱吉は壁に凭れ掛かりながら、リボーンの様子を見る。今更、前の席へと戻る気にはならなかったし、一曲だけ聴いて帰るつもりでいた。

「んじゃ、一曲目行くぞ♪」

リボーンの声に、先ほどまで騒がしかった会場内が水を打ったようになり、誰もが耳を澄ます。
スカルの桴のカウントと叩かれる音。それを合図にコロネロとリボーンが同時に弾きだす。最後にマーモンのキーボードの音色。

「〜立ち止まって泣いてたらそこまでだ♪ 運命は自分で変えてかなきゃな♪」

「…っ」

綱吉は凄いと思った。綺麗な歌声が、砂漠に染み込んでいく水のようにすうっと心に沁み込んでいく。心地よくて、ずっと聴いていたい。この場にいる人々、皆が歌声に魅了されている。

これほどまでに、澄んでいて純粋に想いを伝えてくる歌声を聴いたことがなかった。二曲目は切ない片想いを綴った歌詞。涙を誘うのではなく、自然と零れていく。そんな悲しげな想いを歌声に乗せてくる。

「す…ごい」

曲を聴いているうちに、心奪われ感動してしまい、綱吉は聞き惚れる。最初の予定は頭にはなかった。最後の一人が出て行くまで、綱吉はその場に立っていた。
















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