ココアとエスプレッソ リボーンと綱吉が両想いになって、数日過ぎた頃。綱吉は前々から気になっていることをリボーンに尋ねてみることにした。 「ただいまだぞ」 「お帰り」 任務を終えて帰ってきたリボーンを見て、綱吉はほっとする。今回の任務は短期間で終わるものだったが、危険な任務だったからだ。 「エスプレッソ飲む?」 「あぁ、頂くぞ」 早速、愛銃の掃除をし始めたリボーンを見て、心が温かくなる。リボーンがここにいてくれる幸せを綱吉は噛み締めながら、エスプレッソとココアを作り始める。 「はい、出来たよ」 リボーンの目の前にマグカップを置く。数回空撃ちをした後、銃を定位置に置き、リボーンはエスプレッソに口をつける。 「…まぁまぁだな」 「えー」 恋人関係になってから、綱吉の淹れるエスプレッソに厳しくなったリボーン。今日は上手く淹れれたのにと不満げな綱吉に対し、リボーンはこう言う。 「お帰りなさいのキスがあれば、満点だぞ」 「……」 当然、綱吉は頬を染め黙り込んでしまう。リボーンは免疫ありまくりだが、綱吉は全くと言っていいほど免疫がない。 「無理」 「あ?」 リボーンが青筋を立てたのにも気づかず、綱吉は顔を真っ赤に染めながら言う。 「無理なものは無理!てか、なんで、いつも俺からさせようとするのさ!?」 「いつもって言うがな、てめぇがしたのはあの時だけだぞ!」 綱吉はリボーンの言葉に反論出来ずにココアを飲んでやり過ごす。リボーンは何度も綱吉からキスをさせようとしたが、その都度逃げまくっていた。 「恥ずかしいんだもん…」 ココアを持ちながら綱吉は小さく小さくなり俯く。耳まで紅くさせ、子供のように小さくなってしまう。 リボーンはこの姿がどうも苦手だ。大の大人にも関わらず、その姿がいじらしく思えて何度抱きしめたいと思ったことか。毎回、綱吉はこの姿をとるためリボーンはなにも言えなくなる。 「はぁ…。こっち来い」 仕方がないと言った風にため息をつき、リボーンは綱吉を自分の横に座らせる。頬の赤みが引かない綱吉は俯いたままだ。 「今日だけだぞ」 何度その言葉を呟き、綱吉にキスしたことか。この生徒は自分はキスしないくせに、されると酷く嬉しそうな顔をするから性質が悪い。 その顔に参っている自分も自分だ。愛おしいと思ってしまうがために、やってしまう。 その後、特になにかをするわけでもなく、ゆったりとした時間を過ごしている。しかし、一時間ほど経つと綱吉がそわそわし始めた。 「ん?トイレ行きたいなら、自分で行けよ」 「ち、違う!!」 ニヤッと笑いながらからかうリボーンに、綱吉は真っ赤になりながら反論する。だが、次の言葉はなかった。リボーンが行けばとか俺はそこまで子供じゃないとか。 いつもの反論はない。 「…どうした?」 その様子が違和感に思えてならないリボーンは綱吉に尋ねる。ところが、綱吉は何処か落ち着かない様子で答えようとしない。 「どうしたんだ?」 「ひ、一つ…聞いてもいい?」 優しく聞いたリボーンに綱吉は許可を願う。一つ頷き、リボーンは先を促す。綱吉は意を決したように口を開いた。 「どうして、盗聴なんてしたの…?」 「は?」 思ってもみなかった質問にリボーンはまぬけに返す。呆れられたと慌てた綱吉が早口にしゃべり始めた。 「な、なんていうか…。リボーンってさ、何でも自分のやりたいようにやるじゃん!こう、誰がどう思っているとか、何が言いたいとか直接聞くのにやり方が躊躇し過ぎてた気がしてさ!銃で脅してでも聞くのに、あまりにも変っていうかさ!」 捲し立てて話す綱吉が面白くて、リボーンは笑ってしまう。リボーンの笑い声にはっとした綱吉は恥ずかしそうに俯く。 「わ、笑わなくったっていいじゃん」 「ククッ…。面白くてな」 一頻り笑ったリボーンはすっかり拗ねてしまった綱吉の頭を撫でながら言う。 「お前の性格上、簡単に愛の言葉なんざ言わねぇだろ?聞きたいと思ってもなかなか言ってくれないからな」 「…。でもさ、俺があの時、言わなかったかもしれないよ?」 コクリと最後のココアの一口を飲み綱吉はリボーンを見上げる。リボーンも最後の一口を飲み、笑いながら答える。 「それはねぇな。お前を十年見てきたんだ。些細な変化もすぐ分かるぞ。そろそろ限界だなと思ったから、レオンに仕掛けた」 リボーンが十年も自分のことを見ていたなんて、綱吉はすぐには信じられなかった。だが、リボーンの眼差しが十年もの時を宿している。 だったら、尚更満足などして欲しくなかった。機械を通した自分の愛に。 「好きだよ」 「あぁ」 「大好き…だよ」 「当然」 「あ、愛してるっ!」 「俺もだぞ」 甘酸っぱい苺のように真っ赤になった綱吉が、精一杯の愛情を込めてリボーンに想いを伝える。その言葉を受け取ったリボーンは綱吉の耳元に、極上の声音で想いを伝える。 耳元を隠す綱吉に構わず、リボーンは優しい口付けを贈る。 ココアとエスプレッソの入り混じったほろ苦い口付け。それでも二人は幸せそうに笑っていた。 top |