リボーンの暴走 「無理ですよ。会えませんよ、絶対に」 「会えねぇなら、呼び出すぞ」 天上天下唯我独尊とは彼のためにある言葉ではなかろうかと思わせるほど、リボーンは我が道を歩く。案内人のスカルはため息ばかりを出しつつも、律儀に綱吉の教室へと案内する。 廊下を歩く二人を女子の悲鳴と疑うほどの声援が包み込む。いつものリボーンならば確実に、睨みを利かせて女子を泣かせるほど黙らせるのだが今日はしない。今のリボーンには綱吉しか頭にないからだ。 「…ここですよ」 綱吉の教室へと来たリボーンとスカル。スカルは自分の役目は終わったと、さっさと帰ろうとするが、もちろんリボーンが許してくれるわけもなく、そのままパシられる。 「ごめん。沢田綱吉いる?」 スカルは入り口の側にいた女子に声を掛ける。声を掛けられた女子は頬を染めながら、綱吉を呼び出す。それを不思議そうにスカルは見ていた。何故、女子が紅くなるかが分からない。 「どうしたんでしょうかね?」 「さぁな」 リボーン、コロネロ、マーモンと美形が揃っているため目立ちにくいが、スカルもそこそこ人気がある。ただ、本人が自覚していないだけだった。 スカルの言葉にククッと笑いながら、リボーンは相槌を打つ。格下に教えてやる気など毛頭ない。 呼び出した綱吉は待てど暮らせど来ない。リボーンとスカルが教室を覗くと綱吉が行くのを拒んでいた。リボーンファンの女子が脅しを掛けて、行くよう説得しているが行く気はないらしい。 「ちっ…」 苛立ちを露わにリボーンは舌打ちをして、スカルが止めるのも聞かずにずかずかと無遠慮に教室へと入っていく。女子の声援には見向きもせず、真っ直ぐ綱吉の元へと行く。 「来い」 「え?」 まさか教室に入ってくるとは思っていなかった綱吉を無視して、リボーンは俵みたく綱吉を担ぎ上げ教室を出て行く。 必死に抵抗する綱吉や流石にまずいと思ったスカルの止めも無視して、満足げにリボーンは音楽室へと向かっていった。 優しくというよりは、ドスッと音が聞こえてきそうなほど手荒にリボーンは綱吉を音楽室の床に下ろす。ことの出来事についてきてない綱吉は怯えたように小さくなる。 「誰だ?コラ」 騒ぎながらやってきた仲間二人と謎の人物一人。コロネロは見たことがなく、見当もつなかいため尋ねる。 すると、リボーンは得意げに答えた。 「VongolaのTsunaだぞ」 その場にいるリボーン以外の全員は絶句してしまう。今までの様子を見てきたスカルさえも信じない。 「う、ウソだよね。こんな平凡な子がTsunaなんて…」 信じられないともろに表情に出しているマーモンが綱吉を指差しながら言う。それにコロネロとスカルも同意する。 「オレもそう思うぜ、コラ。なんつーか、あのTsunaとは似ても似つかねぇぞ。Tsunaって奴はもっと堂々としてたぜ」 「すみませんが俺もそう思います。沢田には悪いですが…。全然Tsunaって感じかしません。Tsunaってもっと凛々しくありませんでしたか?」 その場に綱吉がいるにも関わらず、三人は話を進めていく。話を聞かざるを得ない綱吉はこの場から立ち去りたくて堪らなかった。見ず知らずの人にここまで言われる筋合いもないし、男だけというのも不安で仕方がない。 「いいや、Tsunaで間違いないぞ。オレの絶対音感が狂うはずがねぇ」 好き勝手に話していた三人を黙らせるかのようにリボーンは言う。その言葉に三人は口を噤む。リボーンの絶対音感は確かだ。 「だよな。沢田綱吉」 リボーンが視線を向け、同意を求めるが、綱吉は否定も肯定もしない。恐怖で固まってしまい身動きが取れずにいた。 「そこでだ。お前にボーカルをやってもらいたい」 「え?」 リボーンは同意など期待していたわけではなく、自分の話したいように話をしていった。だが、リボーンの言葉に綱吉は更に固まってしまう。 「いいよな」 「い、嫌で…」 「よし、こいつも了解したし、ボーカル決まりだぞ」 了解してねー!という綱吉の心の叫びも届かず、リボーンは自分のベースの調子を見始めた。これはあんまりだと思ったスカルが意見する。 「せ、先輩。無理やりはいかがなものかと…」 ジロっとスカルを睨むリボーンだったが、綱吉に目を向け目つきを戻した。綱吉は顔を青ざめさせ、今にも倒れそうだった。目に涙を浮かべ、怪我をしている手首を引っかきなんとか意識を保っているようだった。 包帯の巻かれた痛々しい手首には血が滲んでいる。 「やめろ」 リボーンは綱吉の裾を取り、引っかくのをやめさせる。今にも泣き出しそうなほど不安げに見つめてくる綱吉に、ため息一つつきリボーンはある提案を出した。 「来週の土曜にオレたちのライブがある。お前はそれを見に来い。上手いか下手か聞けば分かるだろ?少しでも上手いと思ったら、ボーカルをやってもらえないか?」 「……」 リボーンの真剣な眼差しに綱吉は戸惑った。しかし、なんとなくこの人の演奏を聞いてみたいと思った。 ゆっくりとぎこちなくではあるが、一度だけ綱吉は頷いた。 |