想いはどこへ




「ひくっ…」

綱吉は布団を頭から被り、一人ぼっちで泣いている。リボーンに平手をかましてから、何分経っているのか分からない。
いや、下手をすると何時間も経っているのかもしれなかった。

「ははっ…。合わせる顔がないや」

ようやく泣き止んだ綱吉は少しぼーっとする頭で考える。冷静に考えてみれば、綱吉が悪いことは一目瞭然だった。
好きになってしまった自分が悪い。それを聞かれて、怒るのはお門違い。笑いの種になったのなら、それでいいではないか。

「でもっ…」

悲しいものは悲しい。また泣きそうになるのを、枕に顔を押し付けることでやりすごした。





たくさん泣いたらお腹が空いたという、単純な理由で綱吉は執務室へと戻ってきた。もう、夜も遅いし、誰もいないだろうと顔すら見ないで来た。

「え…なんで?」

無駄に長い足を組んで、ソファーに寝転んでいる黒い物体がいる。灯りを消して寝ればいいものを着けっぱなしにして、腕で目を隠して寝ている。
抜き足差し足忍び足で近づくとぐっすりと眠っているようだった。しかし、引っ叩かれた頬が赤くなっていて痛々しい。

「冷やしたほうがいいよね」

綱吉は一人呟き、冷蔵庫へと向かう。リボーンのために冷えた氷を袋に詰め、直接当たらないようタオルに包み、リボーンの傍へ腰を下ろす。

「起きたら…まずくない?」

ふと思い立ち、躊躇する。引っ叩いたのも自分だし、最低と吐き捨てたのも自分だ。そんな奴が近くにいて、リボーンはどう思うか。考えるまでもなく、怒りの鉄拳か暴言が飛んでくる。いや、どちらもだ。

「しょ、しょうがないよね。痛そうだし…」

暴言や鉄拳を覚悟の上で、綱吉はリボーンの頬に袋を当てる。冷たさにぴくっと反応し、リボーンが目を覚ました気配がしたが顔を上げられない。

「ん…?」

じーっと見られている視線を感じるが、まともにリボーンの顔を見れないでいた。

「お前、ブサイクだぞ」

「な!?」

覚悟をしていた暴言のどれにも当てはまらず、綱吉は思わず顔を上げた。ばちっと目が合い、リボーンはニヤリとした笑みを浮かべた。

「目は腫れてるわ、鼻は赤くなってるわ…。ブサイクが更にブサイクになってるぞ」

「う、うるさい」

正直、こんな会話が出来るとは思ってなかった。唯の言い合いだが、涙が出そうになるほど嬉しかった。綱吉は嬉しさから、紅くなっている頬を見られたくなくてそっぽ向く。

「お前が冷やしとけ」

ぐいっと目元に袋を当てられる。熱をもった目には心地よい。でも、それじゃあ意味がない。

「り、リボーンは冷やさないの?」

「オレか?オレはツナが毎日キスをすることで治るからいいぞ」

「はい…?」

目の前の人物はなんと言いました?
綱吉の頭は混乱し、ついていけずにいた。理解しようとフル活動をさせるが、無理だった。

「ここまで言っても分からねぇのか?オレはツナとキスしてぇつってるんだぞ」

「っ…!」

絶対に耳まで紅い。リボーンにククッ…と笑われながら、袋を取られる。視線がうようよと彷徨うのは許して欲しかった。

「い、イヤじゃないの?」

「別に」

リボーンにニッと笑われ、了解を得たとし、ゆっくりと近づいていく。ばくばくと煩い心臓を誰か止めて欲しい。

ちゅ…とリップ音がなり、更に恥ずかしくなる。

「ツナ、お前、キス知ってるか?」

「え!俺、ちゃんとしたよ?」

綱吉は確かにした。キスを。頬にだが。当然、リボーンは納得がいかない。ぐいっと綱吉のネクタイを引っ張り、唇に軽くキスをする。驚く綱吉に構わず、リボーンは唇を割らせ、縮こまっている舌に自分のそれを絡ませていく。

「はあっ…」

長いキスが終わり、綱吉は肩で息をする。リボーンは満足そうな笑みを浮かべて、綱吉を見上げる。

「これがキスだぞ」

「っ…」

綱吉はじわりと瞳に涙を浮かべていく。念願のキスは叶ったが、嬉しくなかった。リボーンはただキスがしたいだけのように思えてならなかった。
自分は気持ちがあるから、頬にだけどキス出来た。でも、リボーンはそうじゃない。

「お前、また変な勘違いしてねぇか?」

「へ?」

リボーンにじろっと睨まれ、綱吉の涙も引っ込む。間抜けな返事しか出来なかった。

「オレが男に簡単にキスすると思うか?盗聴したのは悪かったが、好きな奴の本音を聞くのにいちいち手段選ぶと思うか?」

綱吉の疑問をリボーンは簡単に吹き飛ばした。綱吉の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れてくる。

「お前は泣きすぎだぞ」

上体を起こしたリボーンに涙を舐め取られる。嬉しさから、綱吉の涙は止まらなかった。



想いは届いた。









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