すれ違い




散々泣いたらすっきりした。目が少し腫れてしまったが、冷やしたので大丈夫だろう。

「うん。おかしくない」

綱吉は洗面台の鏡を見ながら、自分の様子を確認する。ぱんっと頬を叩き、気合を入れる。

「大丈夫だよね!」

鏡に映る自分ににこっと微笑み、洗面台を後にした。






「ただいまだぞ」

「お帰り」

リボーンは綱吉に声を掛けながら、愛用の帽子をスタンドに置く。その際、埃を軽く叩いて取るのも忘れない。

「はい」

「いい子にしてたか?レオン」

綱吉が優しくレオンを抱き上げ、リボーンに手渡す。レオンに聞いても、返事はないのだがリボーンは構わない。軽くキスをして、定位置の肩へとやる。
綱吉はそれを見ないようにした。

リボーンはソファーに座り、足を組む。レオンに対して、何かをしているが見てはいけないような気がして、綱吉は部屋を後にした。






「リボーン、エスプレッソ淹れるけどいる?」

「あぁ、貰うぞ」

暫くして、綱吉はココアを淹れるついでにと、リボーンの好きなエスプレッソを淹れに席を立つ。

「はい」

「ん」

出来上がった淹れ立てのエスプレッソをリボーンの目の前に置く。綱吉は向かい側に座り、ココアを飲みながらリボーンの様子を伺う。

「なに…してるの?」

「大したことじゃねぇぞ」

「いや、大したことでしょ?」

綱吉がそういうのも無理はない。リボーンはレオンを何故だかCDプレーヤーらしき物に変身させていた。イヤフォンを接続し、準備が完了した。

「これでよし」

再生ボタンを押したリボーンはエスプレッソを飲みながら聞き入り浸っている。性能のいいイヤフォンらしく音漏れはしてこない。

「なに聞いているのさ?」

「聞きたいか?」

質問を質問で返された。綱吉も聞いてみたいので、軽く頷いた。あっという間にエスプレッソを飲み干したリボーンに、ちょいちょいと指でされ近づく。

「よっと」

「ええっ!?」

綱吉は何故だかリボーンの太ももの上に座っている。しかも、向かい合わせで座っているので顔が近い。

「お、おろして!!」

リボーンに心臓の音が聞こえそうで慌てる綱吉はおろして欲しいとせがむ。しかし、聞き入れてはもらえず代わりに片方のイヤフォンを耳に突っ込まれた。

「おろしてってば!!」

『いいなぁ…。愛されるって』

「ん…?」

さっきレオンに話していた愚痴が耳から聞こえてくる。綱吉に聞こえているのなら、当然リボーンにも聞こえている。
綱吉が呆然としている間にも会話は続く。

『それ以上の感情を抱いているからだよね…。リボーンに抱き着くとか一生無理だよな』

「っ…!?」

口が出るより、手が出る。綱吉は素早くリボーンからイヤフォンを奪おうとするが、簡単に阻止されてしまう。何度が試みたが、リボーンの背中とソファーに腕を挟まれ、身動きすら取れなくなってしまった。
綱吉は挟まれたことでより密接してしまい、熟れた林檎のように真っ赤になっているのが自分でも分かった。

『ううっ、悲しいよぉ。リボーンのこと好きなのに、伝えられないって辛すぎる』

涙声で言っている自分の声が聞こえてくる。綱吉は恥ずかしくて居た堪れなさに涙目になる視界の中で、リボーンが笑っているのが見えた。

「え…」

別の意味で視界が滲んできた。

どうしておかしそうに笑っているの?なにがそんなにおかしいの?

言葉にならない思いが次々と涙に変わっていく。声を押し殺して泣く綱吉に、リボーンは気づかない。最後まで聞き終えたら、リボーンは綱吉の腕を解放した。

「ツ…おい…っ!」

やっと気づいたリボーンは綱吉の顔を見て驚く。が、なにか言う前に乾いた音が部屋に響き渡った。

「最っ低!!」

綱吉はありったけの思いを込めて、リボーンを睨みながら言い放った。リボーンから離れ、ずかずかと自室へと戻っていった。


想いはツタワラナイ。
















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