「こんにちは、坂田さん」 「ぁあ?エリートが万事屋なんかに何の用だよ」 新八も神楽も居らず、一人ジャンプを読み耽っていた所に、ピンポーンと邪魔をする音。 訪ねて来たのが客ならまだ良かったものの、開けた扉の先に居たのは見廻組の局長、佐々木異三郎だった。 「先日のお礼にと思ったんですが、迷惑そうなので帰りますね」 そう言ってこれ見よがしに左手を上げたそいつの手には、ケーキの箱。 くるりと方向転換をした奴の肩をおもいっきり掴んだ。 「いやいやいやいや待て待て待て待て!!誰も帰れなんて言ってねーだろーが!!」 とりあえず佐々木を居間へと上げると、奴はケーキの箱は己の隣に置いたまま話し出した。 「今日わざわざエリートの私がこちらへ伺ったのは、先日ウチの者がお世話になったお礼にです」 「あー、アンタのかわいい彼女サンな」 「ええ。ボディーガードありがとうございました」 「ああ、うん、全く否定しねーのな」 「かわいいですから」 「そりゃかわいかったけどな」 「手を出さないでくださいね」 「へーへー。心配しなくてもあの子はアンタ一筋だろ」 「それは知ってます」 「んだよてめーはノロケに来たのか?!」 「ちょっかい出されたら困りますので」 佐々木はしらっと答えると、約束通りケーキとお金です、と横にあった箱と懐から封筒を出して渡してきた。 「マジでか!両方いいのかよ!?」 「もし坂田さんが助けて下さらなかったら大変なことになっていましたので」 先日、コイツの彼女が万事屋の裏で襲われかけていたのが聞こえたので、助けた後に家の方まで送ってやろうとした。 結局、途中でコイツが車で偶然通りかかったので、そこで引き渡したのだが。 「随分ご熱心じゃねーか」 「……否定は出来ませんね」 佐々木はふうっと息を吐くと、では失礼しますとすぐに立ち上がる。 「どーしたァ?もう帰んのかよ」 「エリートは暇じゃないんですよ」 からかってやろうとニヤニヤしながら言った言葉に、棘のある言葉で返された。 コイツがあの彼女にゾッコンなのは、初めて二人のやり取りを見た時にすぐ思った。 俺といる事にすげー納得いかなそうだったし、彼女がちょっと俺に気を許してたのを見たら、すぐ引き離そうとして、からかうより先にただ驚いた。 あの娘は確かに容姿はいいし、礼儀正しいし、ちょっと鈍いところなんかも男心をくすぐりそうだ。 ま、コイツと付き合う上で色々悩みもありそうで、ちょっとめんどくさそうだったけど。 「んなに魅力的なわけ?」 純粋な疑問を投げかけると、玄関へ向かっていた足はピタリと止まり、ゆっくり振り返って佐々木は口を開いた。 「魅力的ですよ。まぁ、私だけがわかってればいいんですけどね」 俺としたことが返す言葉が浮かばなかった。 何かに執着するような奴には見えなかったし、増してや色恋沙汰には興味がなさそうだと思っていたから、ここまでかと二の句が継げない。 万事屋を出て行く背中を黙ったまま見送り、扉が閉まって少ししてからようやく呟いた。 「……牽制の為だろーけどなァ」 あの時、他の奴にお礼に行かせると言っていたのに、自ら赴いてまで、手を出したらただじゃおかないと言いたかったのは、十分伝わった。 だが、ぶっちゃけあんな奴が執着するなんて、どんな娘なんだろうかと興味が出てくるもんだ。 次にあの娘に会う時が楽しみだ。 そう思ってから、新八と神楽が帰ってくる前に、ケーキを平らげてしまうことにした。 (20120908) ×
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