異三郎はいつもメル友を欲しがっては、強引にアドレスを交換しているが、いつまでたってもメル友らしいメル友は出来ない。
それは異三郎の性格やら鬼メールやらも原因ではあると思うが、その上、交換する相手が元々メールをするような性質ではないのに、メル友にしようとするからでもあるだろうと、口にはしなかったものの、#名前#はそう思って半ば呆れていた。

結局、異三郎のメール相手の一番多くは、凛だと自負していたし、本当にその通りだった。


「……異三郎さん」

「なんですか?」


まるで生気のないような、死んだ魚のような、と形容するのが相応しいであろう目が、凛を映した。

ここ数日、凛には気になっていたことがあった。
それは、異三郎をよく見ていないと気が付かないような変化であったが、恋仲である凛が気付くのは容易なことであった。


「……」

「……どうしました?」


呼んでおきながら口にしづらいのか、言葉を発さない凛に、異三郎は軽く小首を傾げた。
何か言いたげな表情の凛と少しの間見つめ合っていると、先程まで弄っていた携帯電話が震える。
その震えが収まると、それをきっかけに凛は口を開いた。


「最近、よく連絡される方、いらっしゃるんですか?」

「あぁ、はい。ちゃんと返信をしてくれるメル友が出来ました」

「……ようやく、ですね」

「凛さんも返してくれるじゃないですか」

「まぁ、返しますけど……」


私はメル友ではなく恋人だと思ったが、凛はその言葉を飲み込んだ。
付き合い始める前から異三郎のメールにはちゃんと返信をしていたから、間違いではないのだ。


「よく気が付きましたね」

「それは、異三郎さんが楽しそうだから……誰かに一方的に送ってる訳じゃないのは、気付きました」

「やっぱり、凛さんにはわかってしまうんですね」

「……どなたと、してらっしゃるんですか?」


自分以外の誰が、異三郎の相手をするのだろうと、ただ単にそういう興味からだけで、聞いた訳ではなかった。
聞いたところでどうなる訳でもないのだが、所謂嫉妬である。
今まで凛だけが異三郎のメール相手をしていたのに、そうじゃなくなったことが、なんだか気に食わなかった。


「真選組の、例の彼女ですよ」


例の彼女、とは、真選組に唯一いる女性の隊士のことだ。
おまけにあの土方十四郎と付き合っているようで、以前異三郎と凛の間で名前が上がったことがあった。
凛はただの女中である為、面と向かって会ったことはないが、テレビや新聞に真選組が取り上げられることはよくあるし、市中で見かけたこともあった。

よりによって仲の悪い土方の彼女とメル友になっているなんて、そう呆れるより先に、相手が女性であることに不快感を覚えた。

基本的に凛は表情の変わらないタイプだが、それでも感情の起伏はわかる者にはわかってしまう。
異三郎も敏感に感じ取ったようで、凛と同じく変わらぬ表情で、凛の様子を見ていた。


「すみません」

「え?」

「凛さんといるのに、メールばかりしてしまって」

「異三郎さん……」


よく考えれば、今までは一方的に、暇潰しのようにメールをしていたので、異三郎が凛と居る時に携帯を弄ることはあまりなかった。
それが初めて、凛以外にメールを返してくれる人が出来たので、凛と居るのにも関わらず、夢中になってメールしてしまっていたのだ。


「いえ……せっかくお相手が見つかったんですから、構いませんよ」

「……確かに、彼女とのメールは楽しいですけどね」


そう言っておもむろに携帯を開いた異三郎は、届いていたメールを目にすると、それを凛に向けた。


「私も彼女も、恋人が一番なんですよ」


差し出された異三郎の携帯には、例の彼女からのメールが写し出されていた。





ごめんなさい。
土方さんの機嫌が悪いので、メールは控えます。
でも、佐々木さんには可愛い彼女さんがいらっしゃいますし、大丈夫ですよね(笑)?

今度サブちゃんとWデートしたいお\(^o^)/
サブちゃんの彼女さんと仲良くなりたいお\(^o^)/
だからサブちゃん早く土方さんと仲良くなってね\(^o^)/

では、失礼します。





「……」

「私には可愛い凛さんが居れば大丈夫ですから」

「かっ、可愛いって……!」

「おや、彼女に凛さんの写メを送ったら、可愛いって言ってましたよ」

「しゃっ、写メ?!異三郎さんなにしてるんですか?!一体どんな写真を?!っていうかいつの間に撮ったんですか?!」

「凛さんが仲良しの野良猫と戯れてたところを」

「えっ?!どうしてそれを?!」


凛には買い物ルートでよく出会う野良猫がいる。
だが、その事は特に誰にも話していなかったはずだった。


「凛さんのことですから」


答えになっていない。凛はそう思ったが、聞いても答えてくれそうにないので諦めた。
その後、凛にだけは度々見せてくれる、優しい瞳をしてくれれば、それだけでどうでもよくなってしまう。

異三郎の特別な存在でいられることが、凛には幸せで、凛が特別な存在でいてくれることが、異三郎にも幸せであった。


(20120404)
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