隣の席の火神くんは、あまり勉強が得意ではないらしく。
先生に当てられそうになる前に、よく私に聞いてきたりしていたことから、そこそこ仲良くなった。

そんなある日、火神くんに映画でも行かねぇ?と誘われた。
特に断る理由もなく、観に行こうとしている映画は、私も気になっていたものだったから、軽い気持ちでいいよ、と返事をした。

ところが、友人にそれはデートだと指摘された。

私からすると、友人と出掛けるのと同じだったけれど、更に、この前試合観に行ってたよね?と言われた。
確かに、火神くんに良かったら観に来いよと言われ、その日は予定もなかったので、観に行った。
バスケのルールはよくわからないが、火神くんが凄い上手いのはわかったし、かっこよかった。
すると友人は、ほら、アピールしてきてるじゃん、と余計なことを言うから、それから火神くんを意識するようになってしまった。

意識し始めると、火神くんは普段となんにも変わらないのに、私はちょっとしたことできゅんとしたり、ドキドキしたり、火神くんによって一喜一憂させられてるようで、正直疲れたと感じた。
けれど、火神くんと話しているのは楽しかったから、映画は普通に楽しみだった。

しかし、そこで浮かんだのが、火神くんに彼女はいないのかという疑問だ。

普通は、彼女がいたら他の女の子とは出掛けないだろうが、友人の中には、彼女のいる男子と出掛けている子もいる。
火神くんの中で、私を恋愛対象として全く意識していなければ、そういうこともあるかもしれない。

なんて、悶々と悩み始めたら、もう気になってしまって。
映画を観た後に、夕食の為にファミレスへ入ったところで聞いてみることにした。


「火神くんって、彼女いないの?」


すると、火神くんは、はぁ?何言ってんだ?とでも言いたげな、呆れた表情を浮かべた。


「いたらお前と出掛けたりしねーよ」


きゅんっ、と胸が高鳴った。
そうだ、火神くんは、そういう人だ。
なんだけれど、これは、期待してもいいんだろうか。
他にも、同じように遊んでいる女の子がいるかもしれないけれど、学校では、私以外に仲良くしている女の子は、多分居ない。

すると、火神くんは呆れ半分、疲労半分なため息をハァッと吐いて、首をもたげた。
あ、もしかして、私が何も返事を返さなかったからかな、と慌てて口を開こうとすると、先に火神くんの言葉に遮られた。


「またなんか余計なこと考えてんだろ」

「え……そうかな……考え込んじゃう癖は否定出来ないけど」

「じゃなきゃ、んなアホなこと聞いてこねーだろ」

「それは……ごめんなさい」


確かに、私が勝手に色々考えてしまった結果、彼女がいるのかなんて聞いてしまった。


「ったく。ちょっとは期待したっていいんじゃねーの」

「え?」

「お前の考えてることくらいな、顔見りゃ大体わかんだよ」

「……えーっと……」

「わかってねーだろ」

「う……ごめん……」

「ハァー……つまりな」

「うん」

「なんとも思ってねえ女を、デートに誘ったりなんかしねーってことだよ」


火神くんはそれだけ言うと、食べかけだったハンバーグにフォークを突き刺し、食事を再開した。
一方の私は手が止まったまま、動けなかった。
もぐもぐと口を動かしたまま、再び私へと目を移した火神くんは、ハンバーグを飲み込むとまた口を開く。


「つーかよ、さっきから気付いてんのか?」

「えっ、なにが?」

「手、ずっと止まってる」

「えっ?!」

「だから、考えすぎなんだよオメーは」

「うん……やっぱりデートだったんだね」

「はぁ?!」


私はさっきから、火神くんに呆れた顔ばっかりさせている気がする。
そこからかよ、とぶつぶつ呟く火神くんに、苦笑いしてごめんと返す。


「じゃあ……期待して、いいのかな?」

「……いいんじゃねーの」

「えっ、どっち……?それは虫が良すぎた、かな?」

「オマエなぁ……ちょっとは自分で……いや、そうしたらややこしくなんのか……」

「いや、そんなことないよ、大丈夫!」

「大丈夫そうに全く思えねぇんだけど」

「ううん、だって、火神くん、私のこと……ちょっと意識してくれてるって、そういうことでしょ?」

「……ちょっとじゃねーよ、バーカ」

「え……それって、」

「で、」


一拍置いた火神くんは、何枚目かのハンバーグを食べ終わったらしく、フォークをからんっと鉄板プレートの上に置いた。


「オマエがオレに期待してるってことは、オレもオマエに期待していいってことだろ」

「……それは……その、そうなる、よね……」

「どうなんだよ」

「えっ、と……」

「オレはオマエが好きだけど」

「か、がみくん……」

「オマエはどうなんだよ」

「……わ、たしは……好きなのか、まだよくわからないけど……火神くんといるのは、楽しいよ」

「……じゃあ、もしオレが彼女いるっつったら、どうしてたんだよ」

「……考えてなかった、けど」

「けど?」

「嫌、だな……」

「……なら、俺のこと好きなんじゃねーの」


そう言った火神くんは、もうこっちを見ていなかった。
アメリカ帰りだからか、結構なんでもストレートに言う火神くんだけれど、よく見たら少し頬に赤みが差している。

当たり前、だよね。
誰だって恥ずかしいのに、私は火神くんだけに言わせてる。
私がはっきりしないから、火神くんが進めてくれてるのだ。


「私も好き」

「は……?」

「私も、火神くん好きだよ」

「……なん、つーか……」

「?」

「ほんと、オマエって極端だよな……」

「え……ごめん。火神くんだけに任せてたら悪いかなって、思ったんだけど……」

「いや、まぁ……そういうとこも好きだぜ」


そう言った火神くんの手が伸びてきて、私の頭に乗っかる。


「……私は、そうやってストレートに言ってくれる、火神くんのそういうとこ、好き」

「……オマエ、やっぱちょっとなおせ」


顔を背けた火神くんの耳が赤くなっている。
そういうところも好き、だけど、私もいい加減恥ずかしくなってきたし、言うのはやめておこう。





(20120825)
こうやってストレートに伝えてくれるのは、火神しかいないかなぁと思いました。氷室くんも素でストレートだとは思いますが、ちょっと初々しい感じが足りない気がしたので。
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