この話と繋がってたりしますが読んでなくても大丈夫です。


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黄瀬くんとの出会いである合コンを振り返ろうと思う。
元々、私は彼氏が出来たらいいなぁ、くらいにしか思っていなくて、合コンに行ってまで探す気はなかったし、合コンに参加するような男子と付き合う気もなかった。

ところが、さつきちゃんが元男バスマネジで、幼なじみが男の子であるということがわかると、友人が合コンを開けないかと食いついたのである。
私は少し面倒くさいな、と思ったのだけれど、これも人付き合いの経験にはなるかな、と思い、軽い気持ちで参加することにした。

けれど、参加しなければよかったなぁ、なんて、黙々と焼き肉を食べながら思っていた。
せめてもの救いとして、合コン会場が焼き肉屋さんであったことを感謝するかのように。

出会い目的の友人2人は、モデルをやっているらしいイケメンな黄瀬くんに夢中で、さつきちゃんはと言うと、さつきちゃんには既に好きな人、黒子くんがいて、なおかつその黒子くんは幼なじみの青峰くんとお友達だから、合コンに来てくれたらしく、黒子くんに夢中だ。
青峰くんは合コン自体には興味なさげに焼き肉を食べつつ、黒子くんとさつきちゃんの輪に入っていたりしていて、さらにもう一人の男の子火神くんは、黄瀬くん達と一緒に喋っている。
口を挟む隙もないので、2つの会話を代わりばんこに聞きながら、ただ頷くだけなのが私だった。


「名前ちゃん、よく食べるんスね」


そんな均衡を破ったのは、まさかの、予想だにしなかった相手、黄瀬くんだった。
気を遣ってくれたのか、目が合ったと思ったらそう話し掛けてきてくれたのだが、友人2人と火神くんの目線も私に向いてしまって、一躍話題の中心になってしまう。


「そうなんだよね〜。名前、いつも私たちが食べきれなくなったら食べてくれるし」

「まぁ、食べるの好きだからね」

「でもさすがに火神くんには勝てないみたいだね〜」

「オレか?」

「そうそう!火神くんめっちゃ食べてるよね!?気になってた!」

「あー?そうかぁ?」


そりゃ、男子には敵わないよ。と、心の中で呟いた。
別にコミュ障な訳ではないんだけれど、口を挟むタイミングを逃してしまっている。
でも焼き肉が美味しいから、黙々と食べてられればそれでいいや、なんて思っていると、流れは連絡先の交換となる。


「黄瀬くん教えて〜!後で送るから!」

「私も!じゃあ先に火神くん教えて〜!」

「あれ?名前ちゃんは交換しないの?」

「えっ、と……」


さつきちゃんからそう言われて、めんどくさいからいいよ、と口から出そうになるのをなんとか堪えると、軽く顔が引きつった。
どうせ今後連絡することなんてないでしょ、と思うんだけれど、流れに乗らないのはまずそうだ。


「じゃあ、これ、回してもらってもいい?」


自分から登録するのは面倒だったので、端にいる青峰くんにプロフィール画面を表示した携帯を渡した。
あぁ、と受け取った青峰くんを見てからまた食事を再開すると、こちらを少し驚いたような表情で見ている黄瀬くんが目に入る。
軽く小首を傾げると、なんでもないと言う風に黄瀬くんは微笑んだ。
その笑顔はやはり、さすがモデルであるだけあって、とてもかっこよかった。


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次の日、昨日の合コンについての話題になった時、友人が思い出したように私を罵倒した。


「てゆうか名前ほんっとバカ!」

「えー?なんでよ?」

「普通連絡先教える?教えるんじゃなくて教えてもらわなくちゃ!」

「なに?どういう意味?」


だからぁ!と、声を荒げた友人曰く、自分が教えてもらえば、後で連絡するね、と言ってメールを続けられるが、自分が教えてしまうと、その場で向こうの連絡先も教えられ、それきりになってしまうのだと言う。


「まぁ別にこれきり会うこともないだろうし…」

「ほらそうやって!そんなんだからいつまで経っても彼氏できないんだよ!」

「うるっさいな!大きなお世話ですうー。それに一応後から連絡くれた人もいるし」

「それで?誰か続いてる人いんの?」

「あぁ、うん、黄瀬くん」

「「はぁぁあ!?」」

「ほんとに!?」


物凄い勢いで叫んだ友人2人の後に、さつきちゃんも驚いた様子で身を乗り出した。
気圧された私が小さく肯定を示すと、さつきちゃんは頬を染めて嬉しそうにしているのに対し、友人は女子らしからぬ声を出した。


「今日も!?今日も来た!?」

「え……うん、来たけど……」

「うわ。私来てない」

「私も。おやすみで終わりだった」

「そうそう!うーわ!ないわー」


昨日、その場でメールを送ってくれた人もいれば、後から律儀に送ってくれた人もいたのだけれど、黄瀬くんは後者の方だった。
確か、今日はありがとう、というような、当たり障りのないメールで、それにこちらこそと返せば終わると思っていたのだが、黄瀬くんは話を広げてきた。
少し続いた後に眠くなってきたので、もう寝るという旨を伝え、メールは終わったと思ったが、朝になるとまたメールが来ていたのだ。

面倒になったらあまり気後れせずにぶちってしまうタイプなのだけれど、そんなに仲のいい人でもないので、というか、知り合ったばっかりの人だし、もう会うことはないだろうと思っていても、なんだか悪い気がしてしまって。
しかも相手はイケメンでモデルで、そんな人がわざわざメールしてくれてるのに、面倒くさいと思うのは失礼かな、とか、男子とあんまりやりとりすることもないから、ちょっと興味があったりとか、諸々で今日はまだ比較的時間を置かずに返している。


「それすっごい珍しいと思うよ!」

「ええ?」

「だってきーちゃ…黄瀬くんは、ほっといても女の子から来るからって、自分から行ってるとこ見たことないもん!」

「おおう…さすがイケメン…うらやましい…」

「名前ちゃんは!?名前ちゃんはどうなの!?」

「えー…どうって言われても…」


そこそこメールをしてくるということは、気があると普通なら捉えるところだが、相手はデルモの黄瀬くんだ。
なかなかそこまで期待はできないし、実感も湧かないし、まず恋愛対象としてなんて見ていなかったし。
あまり乗り気でない私にさつきちゃんは「いい子だから!」と推して来たのだけれど、とりあえず向こうの様子を見ようとその場は流した。

その内に段々とメールを返すのが面倒になってきて、間隔があくようになってきた頃だった。
黄瀬くんから今度遊びに行かないかという風に誘われて、社交辞令として肯定を示したら、日時なんかをきっちり明示してきたのだ。
正直、メールではそこそこ話が弾んでるものの、何を話していいかわからないし、確実に気まずくなることは目に見えている。
かと言って今さら断るのも気まずいので、悩んだ末にさつきちゃんに相談してみたら、案の定「会ってみなよ!」と後押しされたわけだ。


「でもさぁ…」

「今は気まずいかもしれないけど、会ってみなきゃわからないでしょ!それに、きーちゃんならよく喋るし、名前ちゃんもそういうのはうまいから、大丈夫だと思うんだよね!」


1度会ってみるべきなのはわかっているけれど、楽しみでもないのに休日にわざわざ出かけるなんて、面倒で時間と体力と気力の無駄だと、最悪だと自分でも思うが気が進まない。
それでもさつきちゃんに、最早勧めるというよりお願いの勢いで、頼まれたと表現するのが正しいだろう。
頼まれたから、会ってみることを決意したのだった。


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「それは…ホント桃っちに感謝っスね……」


私を膝の間に座らせ、後ろから緩くお腹へと手を回していた黄瀬くんは、心から言っているのだとこちらも感じてしまうような声色で言った。
年の瀬であるからと、出会ったときにどう思ったのか、なんてことを話す流れになって、思いのほか覚えていたから長く語ってしまった。


「そうだね。黄瀬くんと今こうしていられるの、さつきちゃんのおかげだもんね」


黄瀬くんの手に自らの手を重ねると、それだけのことなのに幸せで、ドキドキして、頬がだらしなく緩む。


「桃っちがそこまでしてくれたのは、オレが桃っちと色々話してたからなんスけどね。名前っちのこと気になってたから」

「そうそう。それなんで?私ただ焼き肉食べてただけなのに」

「んー……なんか、それがかわいかったというか、ほら、普通は女子力っていって、率先していろいろやったりするじゃないっスか。それを名前っち、やってもらう側で友達から受け入れられてて、なんか、女子には甘えてるのに、男子には全くという距離感があって、まぁ心を許してないのは当たり前なんスけど。オレたちの前で友達にはあんなに笑いかけるのに、相手がオレたちになると自分からは一切ないし、アドレス交換の時はなんにも考えずに自分が1番楽な方法取るし、でも自分勝手なわけじゃなくて……なんか気になっちゃったんスよ」


初対面でそこまでわかっちゃうものなのかと、今後の振る舞い方を考えるのが来年の目標となりそうだ。
でも、そこが気になるって一体どういうことかと、いまいち納得がいかないのだが、どうやら本人もそうだったらしい。


「理由なんて後付けなんスよね、結局。考えたってわからなくて、でも名前っちが気になって仕方なくて、それが恋なんじゃないっスかねぇ。って、オレは考えるの諦めちゃったんスけど。そんな不確かな理由、普通は不安になると思うから、なんとか説明したいけど……名前っちなら、大丈夫かなって」


身体にのしかかってきた重みに、先ほどより近づいたから、更に鼻腔を擽る黄瀬くんの香り。


「大丈夫だよ」


黄瀬くんの愛は、確かに私に伝わっていて、それをなぜかと思ったことはあっても、不確かだと思ったことはない。
私だって、黄瀬くんのどこが好きかと問われたら、すぐに出てくるのは全部、という言葉だけだ。
どこが好きかなんて、彼のどこが好きなんじゃなく、彼自身全てをひっくるめて好きだから。
長所も短所も知っているけれど、そのどちらも愛おしいから、黄瀬くんが好きなんだ。


(20130101)
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