季節の変わり目で風邪が流行り始めた今日この頃、先日その先駆けのようにいち早く風邪を引いたわたしは、微熱はあっても寝込む程のものではなかったので、朝昼晩と欠かさず薬を飲み、土日に沢山寝て治した。
それからなんだか、火神くんがわたしをまじまじと見つめるようになった気がして、首を傾げてみても、火神くんは特に何も言ってこないまま。

いつもは火神くんの部活が終わるのを待って一緒に帰ったりするのだが、まだ鼻声で咳もしていたので、最近は火神くんに心配されて先に帰っていた。
ようやく咳も止んできた今日は、久々に一緒に帰ることになったのだけれど、火神くんは何かを言いたいけれど言いづらいのか、会話も弾まず、気まずい空気のまま時が過ぎる。


「あの、よぉ……」


そんな居た堪れない空気を破るように、ようやく話してくれる気になったのか、おずおずと火神くんが口を開いた。


「なぁに?」

「……あー……唇、どうした?」


思わず、え?と聞き返すと、気まずそうな顔を反らされてしまい、そんなに言いにくいことかと首を傾げる。


「いや、なんつーか、いつもはもっと……ぷるぷるっつーか」


少し恥ずかしそうに頬を染めている火神くんをついまじまじと見つめてしまう。
火神くんの言うとおり、風邪を引いてから薬を飲み続けていたせいか、肌の調子もあまり良くないのだが、特に唇に顕著に表れていた。
いくらリップクリームを塗っても、潤うどころか、血は出ないにしても裂けてしまっていて、自分でも気にしていたのだ。


「んーっと、薬、飲んでたから。あんまり唇の調子良くなくて」

「薬飲むと荒れるモンなのか?」

「私はね。肌も化粧ノリ良くないし」


困ったようにそう言うと、今度は火神くんが私をまじまじと見つめる。
それを不思議に思って首を傾げると、火神くんの大きな手が私の頬を触ってから、ゆっくりと親指で唇を撫でる。


「かっ、かがみくん!?」

「痛いか?」

「……まぁ、裂けてるから、ね」


動揺する私など気にしていないのか、眉を寄せて心配そうにするものだから、困ってしまう。
唇のことを指摘するのは恥ずかしがるくせに、こうやって私の唇には自然と触ってしまうのだから。


「よく、見てるね。火神くん」

「あ、あぁ、まぁ……なんつーか、いつも、その……」

「んー?」

「……なんでもねぇ」

「えー」


頬を赤く染めている火神くんに、先程より優位に立った気がして顔が綻ぶ。


「でも、そういうの気付いてくれてるの、うれしいよ」

「まぁ、そりゃ……目が行くっつーか……」

「うん」

「……キス、したくなるだろ」

「へ……?」


吃驚して間抜けな声が口から出た後、先程の火神くんより赤くなってるんじゃないかと心配するくらい、自分の頬が熱くなる。
火神くんは周りを軽く見渡すと、素早く顔を近づけてきて唇を重ねられた。
その後にペロリと舐められて、私の身体は固まってしまったかのように動かない。


「か、がみくん……」

「ワリ…人いなかったし、したくなった」


照れ臭くなったらしい火神くんに、少し乱暴に手を引かれて、そのまま歩き出す。
繋がれた手が熱くて、そういえば、手を繋いで歩くのって初めてだ、と思い至って更に恥ずかしくなった。
自分の手が火神くんの大きい手に包まれているのが、酷く幸福感を呼び起こす。


「……手、ちっせ」

「えっ?なんて言った?」

「…なんでもねぇよ」


(20121108)
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