秋も色付いて来ると、彼氏のいない女子はクリスマスが寂しいと言い合うようになってきて、その考えには同意なんだけれど、どうせバスケ部はウィンターカップがあるから、彼氏が居ようが居まいが、クリスマスは部員と東京にいるんだろうなぁ、なんて考えてため息。 東京の綺麗なイルミネーションの街並みを歩くカップルを見ると、やけに胸が痛くなりそうな予感がするのは間違っていないだろう。 まぁ、それでも私には好きな人がいて、尚且つその人にクリスマスに確実に会えるというだけで、まだ幸せなんだけれど。 「どうした?ため息なんか吐いて」 「あっ、氷室先輩……!」 好きな人の前だと緊張してうまく喋れないというのは、本当にその通り。 わたわたと慌てる私とは対象的に、部室に入ってきた氷室先輩は優雅に笑って長イスの隣に腰掛けた。 「いやー。クリスマス、寂しいなって話を友達としてて」 「あー。オレ達しかも東京だしね」 「まぁ、東京行ってなくても寂しいのに変わりはないんですけど」 笑って自虐に走ると、氷室先輩も確かに、と同意して笑う。 「彼氏作ればいいのに」 「私なんかに出来るわけないですよー」 「またまた。理想が高いんじゃないか?」 「そんなこと……あるんですかねー……」 元々自分の理想のタイプは高くないと思うのだけれど、氷室先輩が好きな人なんて、それは理想が高すぎると自分でも思う。 「じゃあ、好きな人は?」 「えっ……と……氷室先輩はどうなんですか?」 いない、なんて嘘をつくことはしたくなかったけれど、いる、と答えてそれ以上つっこまれるのも嫌だったので、思わず訊き返してしまった。 「オレ?オレは……いないってことにしとこうかな」 「……ってことはいるんですねー」 「ははは、いないよ。名前ちゃんは?」 なんで1回わざわざはぐらかしたんだとむくれそうになったけれど、すぐ矛先が私に向いたことに焦る。 「……どうでしょうか」 頭の弱い私は同じようにはぐらかすしかなく。 自分に呆れていると、氷室先輩は困ったように笑った。 「まぁ、言いたくないならいいんだけどね」 「いや、そんな、全然言いますよ!」 「そう?じゃあ誰?」 「え!?いや、まだいるとも言ってないですよね!?」 「ははっ、隠すってことはいるのかなって」 「……まぁ、いるんですけどね」 すっかり氷室先輩のペースに巻き込まれてしまって、いるということは認めてしまった。 やっぱりね、と笑われて、恥ずかしくて俯くと、ごめんごめんと謝られる。 「じゃあその人と付き合えばいいのに」 「そんな、無理ですよ!」 「なんで?向こうも気にしてくれてるんじゃないか?」 「まさか!私の気持ちに全然気付いてないと思いますし……」 「そうかな?名前ちゃん結構わかりやすいと思うけど」 「いやいや、氷室先輩が鋭いだけですよー」 「そんなことないよ」 確かに氷室先輩には私の一喜一憂がよくバレてしまうけれど、私の先輩への気持ちまではバレていないからこう言えるんだろう。 楽しそうに笑う顔に、いつもは幸せしか感じないのだけれど、私のことなんてなんとも思ってないんだろうな、と改めて思って、少し胸が痛くなった。 「アプローチしてみたら?」 「うーん、一応してるんですけどねぇ」 「例えば?」 「メールしたり、とか、なるべく話すようにもしてますし……でも、全然脈なくて、諦めようと思ったこともあるんですけど、やっぱり好きで、諦めきれなくて……一応がんばってます」 「そっか。じゃあ告白する予定とかは?」 「そんな、わざわざフられたくないですもん」 「名前ちゃん自信なさ過ぎ。大丈夫だよ、名前ちゃん相手ならオレは大歓迎だしね」 「え……」 なんてことないようにさらっと氷室先輩は言ったけれど、私には爆弾発言過ぎて顔に熱が集まる。 もちろん本当に告白したら付き合ってくれるとは思わないけれど。 「ま、まぁ、私も、氷室先輩だったら大歓迎ですよ?」 「本当に?じゃあオレと付き合ってよ」 「……はい?」 「ん?付き合ってくれるんだろ?」 「いや、いやいやいや!本気ですか!?」 「本気だよ」 いつでも変わらぬその顔を見ても、本気なのかどうか見当もつかないが、氷室先輩の言葉をそのまま真に受けることも出来ない。 「え、でも、氷室先輩、私のこと好きなわけじゃ……」 「ん?好きだよ」 「え?えっ、えっ!?」 「名前ちゃん、え、が多いね」 おかしそうに笑ってそう言われても、私の頭は混乱していて、理解不能。 見兼ねた氷室先輩がちょっと整理しようか、と言った。 「名前ちゃんが好きなのって、てっきりオレかと思ってたんだけど、自惚れだった?」 「え、え?えっ、え!?」 「まぁ、自惚れだったとしても、オレが名前ちゃんを好きなのは変わらないから構わないんだけど」 何言ってるのこの人。そう思いながら氷室先輩を見ているのがバレてしまったのか、苦笑された。 それでも言葉は出てこなくて、悩んでる私を待ってくれている。 「……でも、その、氷室先輩、さっき好きな人いないって……」 「あぁ。うそうそ」 「えぇ!?」 「なんでもそのまま受け取っちゃダメだよ。まぁ、そういうとこ好きなんだけどね」 好き、という言葉が恥ずかしくて恥ずかしくて、とても見せられないであろう顔を見られたくなくて俯いた。 「それで、返事は?その反応見てると、やっぱり自惚れちゃうんだけど」 氷室先輩の視線を感じて、顔を上げざるを得ないと思うけれど、今まともに先輩を見て会話出来るとは到底思えない。 でも、このまま黙り込んでしまう訳にもいかないので、少し俯き加減に見上げることにした。 「……私は、先輩のこと……初めて会った時から、ずっと、好きです」 「オレは、初めて面と向かって話した時かな?その時に可愛いなって」 そう言ってくすりと笑うと、氷室先輩は私の頬に口付けた。 吃驚し過ぎて固まってしまうと、耳に顔を寄せて囁く。 「それからどんどん好きになったよ。可愛い、名前」 最早クリスマスを迎える前に、恥ずかし過ぎて死んでしまいそうだと、上手く思考回路の回らない頭で思った。 (20121030) ×
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