高尾くんと絶対絶対仲良くなりたい。
だけどなんで嫌われてるのか、緑間くんに聞いてもわかるどころか、謎が深まるばかり。
もう本人に聞いてしまった方が早いんじゃないか、そう思い始めると、タイミング良くと言うべきか、帰ろうと制服に着替えて出てきたところで、同じく制服に着替え終わっていた高尾くんとバッティングした。


「あっ」

「あ……」


いつもは合わない目がばっちりと合ったから、2人して立ち止まって沈黙が広がる。
気まずい空気にいち早く耐えられなくなったのは高尾くんだった。


「……お疲れ」


それだけ言うとすぐに目を反らして校門へと向かって行こうとしたので、思わず、待って!と腕を掴むと、バッと勢いよく払われた。


「あ……ワリ」

「う、ううん、わたしこそ、いきなりごめんなさい」


そう答えつつもそこまで嫌われているのかと傷付いた。
一緒に帰れないか聞こうと思っていたけれど、そんな話を持ちかけるのもなんだか憚られて。


「和成くん!」


そこでまたもお互い黙りこくってしまったところに、高い声が間に入って、まるで止まっていた時が動き出したかのように感じた。


「和成くん、今帰り?」

「ん、あぁ、うん、今から帰るとこ」

「じゃあ一緒に帰ろ?」


同じクラスで高尾くんと仲の良い女の子が、高尾くんにそう言いながらわたしを見る。


「もしかして、2人で帰るんだった?」

「いや、たまたま一緒にいただけ。帰ろーぜ」


高尾くんはもうわたしを一切視界に入れず、その子に向かってそう言うと、その子も満足そうにわたしにじゃあね、とだけ言って高尾くんに話しかける。
高尾くんは前を向いたまま彼女に応え、こちらへ振り返ることはなかった。
それをただ黙って見送りそうになっていたわたしの肩を誰かが叩く。


「何をしているのだよ」

「緑間くん……」


緑間くんはわたしにそう聞きながら前方にいる高尾くんと女の子を見て、眉間に皺を寄せる。


「どういうことだ」

「えっと……わたしは高尾くんと帰ろうと思ったんだけど、先越されちゃった」

「……そうか」


厳しい目をしたままの緑間くんは、そう言うとわたしの手を掴んで足早に歩き出した。
緑間くんとわたしじゃ脚の長さが違うから、緑間くんには早歩きでもわたしは完全に小走り。


「み、緑間くん!?どうしたの!?」

「さっさと帰るのだよ」

「えっ?なんで?」

「なんでもだ」


緑間くんに答える気はないと思ったので、黙って手を引かれたままついて行った。
先を歩いていた高尾くんたちを追い越す時、ちらりと高尾くんを見たら目が合って驚く。
高尾くんと目が合うなんて中々ないのに、やはりそれだけわたしと緑間くんが手を繋いで帰っているのは気になるんだろう。
今まで緑間くんには浮ついた話はもちろん、仲のいい女子もいるようには見えなかったから、わたしなんかと帰っているのを不思議に思うのは当然だ。


「緑間くん、あの、手……」

「なんなのだよ」

「目立つんじゃ、ないかな?」

「我慢しろ」


緑間くんの行動に頭の中には疑問符がたくさん浮かぶが、結局家まで送ってくれたにも関わらず、教えてくれることはなかった。










「どーいうことだよ」

「何の話だ」


朝練の前、早々に緑間に昨日の事を聞きに行くと、シラっとした顔でそう言われた。
ただでさえイライラしていたので、笑顔を浮かべて言葉を返すことが出来ない。


「わかってんだろ。昨日なんであの子と2人で、しかも手繋いで帰ってんだよ」

「オマエは他の女と2人で帰っていただろう。文句があるならその前にアイツと2人で帰っていれば良かった話だ。どうせ誘うことなんて出来なかったと思うがな」


全くもってその通りで、ぐうの音も出ないとはまさにこの事だった。
言葉を発さないでいるオレに、緑間は呆れたようにため息を吐く。

元々、あの子の事をオレは最初、自分に似たような八方美人だと思っていた。
しかもバスケのルールも知らないのに、バスケ部のマネージャーなんて、ミーハーもいいとこ。
だから、オレと同族の彼女なら、素っ気なくすれば意図がわかるだろうと、距離を置いた。

だが、彼女が本当にオレらの力になりたいと思ってくれているのは、その仕事ぶりからすぐにわかった。
現に、マネージャーとかいいかも、みたいな感じで入ってきた他の女の子達は、みんな辞めて行った。

更に、彼女はオレと違って、本当に分け隔てなくみんなと接しているのがわかった。
あの緑間にもオレみたいにヘラヘラ笑って近付くのでなく、素のまま自然に会話していて、こんな女子がいるのかと驚いた。

快く思っていなかった彼女のことを、何時の間にか気になっていて。
けれど、素っ気なくしてしまっていた態度をいきなり馴れ馴れしくすることがどうにもできなかった。
しかも、元々避けていて接触もあまりなかったものだから、彼女と関わる時は柄にもなく緊張なんてものまでしてしまって、どうしようもない。

オレのこの気持ちを、緑間だけは知っていた。
本当はオレだけの秘密として心に秘めておきたかったのだが、よく部活中一緒に行動している緑間が、彼女の前でオレの様子がおかしいことに、気づかない訳がなかったのだ。


「チャンスがあったならちゃんと行動しろ。いつまでも向こうから話しかけてくるとは限らないと、前に言ったはずなのだよ」


先日、緑間と彼女が仲睦ましげに話していたから、少し妬いて何を話していたのか聞いたことがあった。
だから、緑間には彼女と手を繋いで帰ったら、オレがこういう風に言ってくることはわかっていたんだろう。


「オレじゃなく、他の男が同じように、アイツと帰ることもなくはないだろう。それが嫌なら他の女と帰っている場合か」


色恋沙汰なんて疎そうな緑間にまでこう言われてしまっては何も言えないし、実際緑間の言っていることは正しい。


「今日は、一緒に帰ってみるわ」


決意したようにそう言うと、緑間は変わらず呆れたように、ようやくか、とため息と共に言った。


(20121017)
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