なんとなく。なんとなくとてつもなくラピュタが見たくなった。

でも一人で見たって寂しい。
誰かと感情を共有したい。


「ってゆーことで来ました」

「いや、まぁいいけどよ。今誰もいないぜ」

「銀ちゃんがいるじゃない」

「俺ジャンプ読んでるから」

「ジャンプなんていつでも見れるじゃない」

「ラピュタもいつでも見れんだろ」

「いやいや。借りないと見れません。おまけに今日100円の日じゃないから高かったからね、100円じゃないからね」

「ジャンプだって毎週なけなしの金払って読んでんだよ」

「……あ。そういえば駅の高級プリン屋さんでいつも売り切れのプリン買ってきたんだよね」

「あ。俺ちょうどラピュタ見たかったんだわ、ムスカの名言無性に聞きたかったんだわ」

「やだー、奇遇だね。プリン食べる?」

「食べる」


銀ちゃんが嬉々としてプリンを開けるとちょうど神楽ちゃんも帰ってきた。
今日は新八くんは来ないのだろうか。
聞いてみたところどうやらお通ちゃんのライブに行ったらしい。
新八くんのプリンは冷蔵庫にいれといてあげようと思ってから、神楽ちゃんにもプリンを渡し、DVDデッキへ向かった。

そこで、見てはいけないものを見た。

別に私はこんなことでいちいちがたがた言うつもりはない。
けど、なんか……趣味が、ね。
その場で少し固まっていると、後ろからかわいい声。


「どうしたアルカー?」


ひょいっと覗き込んで来た神楽ちゃんは、ソレを目にしてから一気に軽蔑した目で銀ちゃんを見る。
美味しそうにプリンを頬張る銀ちゃんはその視線を感じとったようだ。


「え。なにそのゴミを見るような目」

「この変態クソ天パが」

「あぁ?いきなりなんだっつーんだよ」

「うるせーヨ変態クソ天パ。コレ見てまだそんな口がきけるアルカ」


DVDデッキを指差す神楽ちゃんに怪訝な顔をする銀ちゃん。
これではもう見て見ぬふりは出来ないだろうと口を開くことにした。


「……あのね。この中に、"淫乱病棟のドMナー「あァァァァァァァ!!!」


言い終わる前に悲鳴をあげながら物凄い勢いでDVDを取った銀ちゃんは、両手を違う違うと振る。


「これはあれだよ、あの……長谷川さんから、その、もらったからさ!無下に捨てるわけにもいかねェしっ?!」

「見ないで処分すればいいネ。これだから天パ野郎は嫌アル」

「おまっ、天パは関係ねェだろ!!」

「気分悪いからもう一回出掛けてくるヨ〜」


神楽ちゃんは銀ちゃんには目もくれずに私にそう言うと、すぐに出て行ってしまった。
残された私たちには気まずい空気が流れる。


「……」

「……」

「……銀ちゃん。私ね、別に……AVの一つや二つくらい、いいの」

「お、おぉ」

「だけど、だけど……ナースって……最低」

「えェェェェェェ?!そこォォォォォォ?!」

「だって……みんなを優しく治療してくれる慈愛の天使だよ?それを性の対象として見るなんて……最低」

「いやちげェって、その慈愛に満ちたナースを可愛がるのもまた燃え「最低」


蔑んだ目で銀ちゃんを見てから私も先程の神楽ちゃん同様玄関に向かう。


「待て待て待て待て!!わりィ!冗談だよ冗談!!」

「へぇ」

「お願いだからその蔑んだ目やめてェェェ!彼女からのその視線すげェ傷付くゥゥゥ!!」

「DVDのドMナースさんに癒してもらえば?」

「いやいやいや!俺はこのナースを名前ちゃんに置き換えてたからね!名前ちゃんしか俺を癒せないからね!」

「それはそれで気持ち悪い。けど……」

「……けど?」

「許してあげる。私もごめんね」

「いや、まぁ傷付いたけど、名前ちゃんが悪いわけじゃないから謝らなくて「違うの」


銀ちゃんの言葉を遮ると、不思議そうな顔でこっちを見る。

今日プリンを持ってきたのは、たまたま近くを通ったから。
ラピュタを借りてきたのは、たまたま見たかったから。


「……昨日。銀ちゃん、誕生日だったでしょ」

「……あぁ、それか」

「……うん」

「べっつにィ〜。銀さんそんなん気にしてないしィ〜」

「……気にしてるよね、ごめんね」


拗ねた口調の銀ちゃんに泣きたくなった。
銀ちゃんは私の謝罪を聞くとだるそうに頭を掻く。

私は幕府に勤めていて、昨日まで仕事がたて込んでいた。
更に江戸にも居なかった、出張だったのだ。
それでも連絡くらいできたはずなのに、忙しさのせいで気がついたのは既に日付が変わったあと。


「……まぁ。電話くらいしてくんねーのとは思ったよ」

「だ……よね。ごめんなさい……」

「でも、忙しかったんだろ」

「……」

「お前が仕事大変なのも、仕事好きなのも知ってるし?」

「銀ちゃん……」

「拗ねなかったっつったら嘘になるが、疲れてんのに今日来てくれたじゃねーか。俺ァそれだけで十分だよ」


ふわり、と銀ちゃんの香りでいっぱいになった。
久々の甘い香り、温かい体温。
仕事疲れなんてどっかに吹っ飛んだ。


「お帰り、名前」

「……ただいま、銀ちゃん。でね、」

「ん?」

「お誕生日おめでとう」


(20111011)
Happy birthday to SAKATA Gintoki !!



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