なんで?なんで他にも空いてるのにわざわざ隣に来るの!?
そう思っても仕方がないほど、彼は私の隣に座るので、居心地の悪さにため息をつきそうになった。

秀徳はバスケ部に限らず、マネージャー業務をしている子は3年生になるとやめてしまう子が多い。
それはもちろん受験を控えているからで、更に部活動はどこも割と強いので、引退になるのが結構遅いから尚更だ。
バスケ部なんてウィンターカップが終わるまでなので、決勝まで行けばセンター試験まであと20日あるかないか。
結果、3年のマネージャーは私だけとなってしまい、マネージャーのまとめ役は自然と私になる。
なので、監督や主将の大坪くんとマネージャー業務のことで話し合う時、レギュラーやスタメンの会議なんかに、マネージャーが知っていなければいけない時などは、代表で参加するのは私ということだ。

そんな時に緑間くんがいる場合、彼は必ずと言っていいほど私の隣に腰をおろすのだ。
別に緑間くんが嫌いな訳ではないけれど、こうも毎回だと少々気にかかるというか、まだ席は空いているにもかかわらずなのだ。
1つ飛ばしたり、向かいに座ったりでなく、必ず隣に座ってくる。
挨拶は毎回ちゃんとしてくれるし、ちょっと変わっているけれどいい子だとは思う。
それでも、会話もなく隣に座って話し合いを待つのは、結構気まずい。
高尾くんも何故かそんな時、緑間くんの隣には座らないから、他がワイワイしている中、私と緑間くんだけが沈黙している。

とは言え、このメンバーはなんやかんや仲が良い。
それは高尾くんが潤滑油のようにみんなを話題に巻き込むからで、気付いたら全員で会話しているんだけれど、最初に感じた居心地の悪さはまだ少し残ってしまう。


「緑間くん、」

「はい。なんですか?」

「……えっと、緑間くん、隣、高尾くんじゃなくていいの?」


前を向いていた緑間くんが、その言葉に反応してか、こちらへ顔を向けた。


「どうしてオレが、アイツの隣に……」

「ええっ。まぁ、同じ1年生でレギュラーだし、一緒にいること多いでしょ?」

「不可抗力です」


緑間くんは不愉快そうに言うと、そのまま前へ向き直ってからちらりと私を一瞥した。


「アイツの隣より、先輩の隣が良かっただけです」

「え……」


なんとも緑間くんらしからぬ発言に、思わず頬が熱くなる。


「あれ?センパイどうしたんすか?顔赤いっすよ」

「えっ、いや!そんなことないよっ、大丈夫」


目ざとく気付いた高尾くんに指摘されて、慌てて誤魔化したが、納得はしてくれなかったらしく、訝しげな表情を浮かべられる。


「真ちゃんったらなにセンパイのことたぶらかしてんだよー」

「なっ!?」

「たぶらかしてなどいないのだよ」


本心を言ったまでだ、と続いた言葉にやっぱり私の頬は熱を持って、高尾くんはニヤニヤする。
センパイも大変っすね、と茶化す声が耳を通り抜けてうまく入らなかった。
これからどんな顔で緑間くんの隣に座ればいいのかわからず、俯くと緑間くんが反応した。


「すみません。迷惑、でしたか?」

「えっ、ううん、大丈夫だよ。ごめんね、私こそ、ありがとう」


彼に何も悪気はないから、気にさせちゃいけないと笑って言うと、緑間くんも緩く微笑んだように見えた。
それに少し驚いた表情をしたのがわかってしまったのか、顔を逸らされる。

気付いたら居心地の悪さなんか感じなくなっていて、私は笑みを溢して椅子に座り直した。


(20121115)
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