涼太くんをますます男の子だと感じたけれど、その後の彼の態度に大きな変化はなく、試合観に来て!と無邪気に言われたので、たまにはバイトも休んで観に行ってみることにした。
会場に早めに着いたから私は座れたものの、海常が出てくる頃には女の子がどんどん集まってきて、立見もちらほら増え始めた。
涼太くんへの黄色い声がどんどん増えて、改めて彼の人気を思い知る。
そんな彼が私の従姉弟で、しかも私に想いを寄せてくれているなんて、ふわふわとして現実味がない。
みんなが見ている黄瀬くんと、私が見ている涼太くんは、なんだか別の人のような気さえした。





「オイ。あの前から4列目の右端の子、可愛くないか?」

「オマエはこれから試合だってのに何見てんだよ!ここIH会場!」

「だから可愛い女の子を見てがんばるんだよ!笠松も見てみろよ、ほら」

「あ!?……まぁ、可愛い、な……」

「だろ!?オレがかっこよくシュートを決めればあの子もオレに、」

「惚れねぇよ!」


彩女っち、どこにいるかなぁ、なんてキョロキョロ辺りを見回すオレに、小堀センパイが話しかけてくる。


「黄瀬も女の子探してるのか?」

「んー、まぁ、そんなとこっス」

「黄瀬も見てみろよ!あの子あの子!」


あまり、というか全く興味がなかったけれど、森山センパイが興奮気味に指差す方、4列目の右端とやらを見る。


「って彩女っちじゃん!」

「お前の従姉弟のお姉さんか!?」


彩女っちはオレと目が合ったのに気付いたらしく、にこりと笑ってくれた。
それに可愛い、なんて溢す森山センパイに釘を刺す。


「彩女っちとなれば話は別っス。あんま見ないでください」

「なんだよ黄瀬、ケチな男は嫌われるぞ」

「なんとでも言ってくださいっス!彩女っちは絶対ダメなんで」

「ん?じゃあお姉さんとうまくいったのか?」

「いや、それとこれとはまた……」

「お前らいつまで喋ってんだよ!集中しろアホ!!」


笠松センパイにど突かれて話が一旦中断した。
森山センパイに目を付けられたのにいい気分はしないけれど、彩女っちが来てくれている。
もちろん自分が誘ったから当たり前だけれど、姿を見れば現実味が湧いて俄然やる気になって、試合には快勝。
ただやっぱり笠松センパイにはかっこつけすぎとど突かれた。





試合が始まる前、アップで出てきた涼太くんに一際高い歓声が集まり、それに圧倒されている中、彼のチームメイトの子がこちら側を見上げていた。
まさかわたしを見ている訳はないだろうと思ったけれど、もしかして涼太くんわたしのこと何か言ったのかな、なんて考えが頭を過る。
すると、涼太くんまでこっち側に寄って来てこちらを見上げたので、目が合った。
なんだか嬉しくなってしまって笑うと、涼太くんも笑ってくれる。
その笑顔にわたしの周りにいた女の子達は声を上げたから、もしかしたら普通にみんなに向けて笑ったのかもしれない。
でも、わたしに向けてだったらいいな、なんて思ってしまって、周りの女の子と比べて優越感を抱きたい自分に、恥ずかしくなったし、おかしいと思った。

告白してくれたからって、何を調子に乗っているんだろう。
なぜ独占欲みたいなものを抱いているんだろう。
試合でのあんなにかっこいい涼太くんを見たのは初めてで、それに興奮する女の子達を見て、みんなもあの涼太くんを見ているんだと思うと、嫌だなと理由もなく感じる自分がいて、嫌だった。
見たことのない、涼太くんではなく、黄瀬くんだと思ってしまう方が、わたしも楽だと思ってしまった。





「どうだったっスか?退屈じゃなかった?」


家に帰ってきた涼太くんは、心配そうにわたしにそう聞いてきた。
もやもやした気持ちは、涼太くんが帰ってくる迄に払拭しておいたので、上手く笑顔を作って答える。


「そんなことないよ、凄い楽しかった」


バスケはぽんぽんと点が入って展開が変わるから、自分がするのはあまり好きではないけれど、体育やら球技大会やらで見ているのは好きだった。


「ホントっスか!?よかったぁ〜。誘っといてつまんなかったらどうしようって思ってたんスよね」

「ふふっ、大丈夫。涼太くん本当に上手いんだね、びっくりしちゃった」


素人目で見ても、涼太くんが強いというのは理解できた。
あれだけのファンがいるのも頷ける。


「まぁ、まだ勝てたことない人もいるんスけどね」


苦笑いした涼太くんに、本当にその人には敵わないんだろうな、というのを感じた。
それでも、次の瞬間には目つきが変わって、次の試合相手なんスけど、と呟く。


「……そっか。勝てるといいね」

「見に来れないんスよね」

「うん……残念だけど、頑張ってね」


すると、涼太くんは読めない目でわたしをジッと見る。
いつもと違う、そう感じて少し緊張すると、涼太くんの形のいい唇が綺麗に弧を描いた。


「今日、どうだった?」

「え……?」


先ほどと同じ質問を投げかけてきたことに疑問を抱くと、ソファで隣に腰掛けていた涼太くんが、距離を詰めてきた。
思わず後退ろうとすると、手首を掴まれて身体がピシリと固まる。


「かっこよかった?ってこと」

「涼太、くん……」

「彩女っちが来てくれたら、青峰っちとの試合、絶対勝てる自信があるんスけど」


かっこ悪いとこ見せらんないし、耳元に顔を寄せてそう言った涼太くんに、赤面する。
いつもより低い声にドキドキしてしまって、上手く言葉を返せない。


「なーんて、そんな簡単にバイト休めないっスよね」


パッと手を離して、また距離を置いた涼太くんはへラリと笑う。
わたしもつらられたように笑ったけれど、なんだかぎこちなさを持ったままで、ごめんねとまた謝った。

掴まれていた手首がまだ熱くて、離れた距離に安心と少しの寂しさ。
涼太くんと近い距離で接することは多々あるから、それは全然嫌じゃないし慣れている。
けれど、それとは違う雰囲気だった今は、どうしたらいいかわからなかった。
それでも、離れるのはなんだか寂しくて、ますます自分の気持ちがわからない。
ため息をつきたくなったけれど、上手く飲み込んで誤魔化した。


(20121029)


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