「えっ、と……」


言い訳が浮かばない代わりに、頭の中ではどうしようどうしようという言葉が渦巻いている。


「……ありがとう。その、涼太くんがそこまで思ってくれてるとは思わなくて、嬉しいです。ありがとう」


少し恥ずかしそうに頬を染めてそう言う彩女っちは可愛いが、何処か違和感を覚える。


「わたしも涼太くんはとっても魅力的だと思うし、好きだよ。だから、自分に自信がなくて、ごめんね」


確実に好きの意味を取り違えている。
少しヒートアップしていたことを申し訳なく思ったのか、伏し目がちに彩女っちはそう言うが、こっちとしてはしっくりこない。
今告白するつもりはなかったし、勘違いしてくれたなら好都合ではあるけれど、思わず口から飛び出した自分の気持ちを、流してしまっていいのだろうか。


「……彩女っち」

「涼太くん?」


真剣な表情を浮かべたオレを不思議に思ったのか、首を傾げて名前を呼ぶ。
その顔を見て、いつまでもこのままじゃ何も進展しないと悟った。





顔を伏せ気味に私の名前を呼んだ涼太くんの表情は、前髪に隠れてしまって見えないものの、普段と違うというのはわかった。
どうしたんだろう。やっぱり、大人げなかったかな、なんて思いながら名前を呼ぶと、強い眼差しで見つめられて息が詰まる。


「オレは、そういう好きじゃないっスよ」

「え?」

「彩女っち、前言ってたっスよね。オレが手を出す気がなければ、大丈夫だって」

「……えっ、と……?」

「覚えてない?そんなにオレは、意識されてない?」


悲し気な顔をした涼太くんにそう言われて、混乱している頭を必死に落ち着けようとする。
涼太くんは、つまり何が言いたいんだろう、なんて考えるよりも、質問一つ一つに向き合うべきだろうか。
涼太くんのこんな顔は見たことがなかったから、早くいつもの笑顔を浮かべて欲しかった。


「……意識っていうのは、その……」


「オレのこと。男として、意識してくれてる?」


そう言った涼太くんの表情は、悲しい顔から一変、雑誌に載っている時のような鋭い目に、色気まで発しているように見えて、心臓が高鳴った。


「……して、るよ」

「え……?」

「だって……涼太くん、小さい頃とは全然違うよね、やっぱり。やっぱり、男の子だよ」


わたしが中学生になってから、涼太くんとはあまり会わなくなった。
それでも時々会う時は、大きくなったなぁ、なんて思うだけだったのに、一緒に暮らすようになって、可愛いところは変わらないけれど、男の子なんだということを意識することは多々あって。
自分から、涼太くんがわたしに手を出す気がなければ大丈夫、と言ったくせに、時折男の子と暮らしているんだと思ってしまって、そう思っていることを隠して接していた。


「すき」

「涼太くん……」

「むしろ、嫌なとこなんて、思い浮かばない。すき」

「……わたし、は、」


男の子だとは思っているけれど、好きとか、そういう気持ちを抱いているかというと、わからない。
ただ、一番男の子の中で涼太くんと過ごす時間が長いのは確かで、家にいてもあくせく動き回っているけれど、それでもわたしにはこの空間が居心地良い。


「ごめん。困らせるつもりじゃ、なかったんスよ」

「ううん。わたしこそ、まだ、よくわからなくて……もっとちゃんと、恋愛しとけばよかった」


わたしはあまり男子と話すタイプじゃないから、告白されたことは少しはあるけれど、ほとんど関わりもない人とお付き合いするのは憚られたし、かといって好きな人がいたかと言われると、いたにはいたけれど見るだけで終わるような淡い恋だった。
本当に好きだったのかも怪しいくらい、相手に彼女がいようと、少し話せたら幸せだったし、自分がその人と付き合うイメージが湧かなかったから、嫉妬することもなかった。
だから、今涼太くんにどんな気持ちを抱いているのか、しっかり自分と向き合わなくちゃいけなくて、そんな経験は初めてで、涼太くんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「大丈夫っス。オレも、結構混乱したから。従姉弟だし」


少し困ったように笑った涼太くんに、気持ちが少々軽くなって、わたしも笑みを溢した。


「そうだね。家族だもんね」

「でも、今後は気を付けて」

「え?」

「オレも、男っスから」


そう言った涼太くんの目は、もういつものように穏和なものではなく、わたしを決して逃がさないと見つめる鋭い目つきだった。



(20121022)


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