告白をする前にすることといえば、自分の好感度をあげることだ!と意気込む。 まずは、洗濯物を取り込んで……やることはそれくらいしかなかった。 夕飯は用意されているし、お風呂やら部屋の掃除も終わっているし、食器は彩女っちも食べ終わってからじゃないと水道代が……明日のお弁当の下ごしらえ、って、計画的に買ってある材料に手を出すのは気が引けた。 ただでさえ料理ができる訳でもないのに、慣れない料理をして消費する訳には……彩女っちが帰ってくるまでに家事をやってしまおう作戦、失敗。 「ただいまー」 「おかえりっス!!」 ドアを開ける音と彩女っちの声に、落ち込んでいた心は元気を取り戻す。 バタバタと玄関まで迎えに行くと、少し驚いた彩女っちの顔。 「どうしたの?いつもは顔出すだけなのに」 「えーっと……彩女っちはいつもお出迎えしてくれるから、オレも」 「そっか、そっか。ありがとねー、涼太くん」 嬉しそうに笑った彩女っちの顔に自分の頬が緩むのがわかる。 いやいや、オレが癒されてどうする! 「涼太くん夕飯食べたー?」 「あ、食べたっス!オレ、これから風呂入るっスね!」 「うん、りょーかい」 これで、彩女っちがご飯を食べ終わってから、お風呂に入っている間に、オレが食器を洗える、と思ったのだが。 オレがお風呂から出てきた時には、既に彩女っちは食器洗いを始めていた。 「あー!彩女っち何してるんスか!?」 「え……?なにって、食器洗い、だけど……」 「それはオレがやるから!彩女っちはお風呂入って!!」 「えぇ?でも涼太くん、まだ髪の毛乾いてないでしょ?」 「いいっスよそんくらい!」 「よくないってば!風邪引いたらどうするの?」 彩女っちは食器洗いを中断して、くるり、とオレの身体を反転させると、そのまま背中を押して、洗面所の方へと進み始めた。 「ちょ、彩女っち!?」 「気持ちは嬉しいけど、先に髪の毛乾かしてからね」 そのまま洗面所へ押し込まれ、床に膝をつくように言われる。 彩女っちの指示には昔から強く逆らえなくて、言われるがままに膝をつくと、彩女っちはドライヤーと櫛を手に持って、オレの髪の毛を乾かし始めた。 自分でできる、と言いたいところだったが、彩女っちにしてもらうのはなんだか心地が良くて、断ることが出来なかった。 髪の毛を乾かしてもらったあと、じゃあお言葉に甘えて食器洗い頼んじゃうね、と彩女っちはお風呂に入ってくれたので、意気込んで食器洗いを始める。 終わってからは炊飯器をセットしたり、キッチンを磨いたり、なんとかせこせこと動き回った。 「涼太くん!?何してるの!?」 「ん?お手伝いっスよ!」 「……そんなことしなくていいのに」 喜んでいる顔、というよりは眉を下げて困った顔をしていたので、こちらも不安になる。 「迷惑、だったっスか?」 「あっ、そういう訳じゃないんだけど、その、ね」 口ごもって視線を彷徨わせる彩女っちに、不安そうな表情をし続けてみると、言うしかないと思ったのか、やはり困ったように笑った。 「涼太くんにそういうことさせないように、完璧にしてたつもりだったから、気持ちは嬉しいんだけど、ちょっと悔しくて」 「オレに、そんなに家事させたくないんスか?」 「うーん……正直、家事もやって、課題もやって、バイトもやってって、大変なんだけど。でも、バイトと大学は頑張らなくちゃいけないし、けど、わたしは家事も頑張りたくて、でも、家事は苦じゃなくて、涼太くんが何も困ることなく過ごしてくれれば、それで良くて……」 前にも言っていたようなことを、再度言ってから、彩女っちは口ごもる。 オレもそれだけで納得することはもうできなかったので、続く言葉を待った。 「わたしはいつだって、涼太くんの期待を裏切らない完璧なお姉さんでいたいけど、わたしは全然完璧じゃない。だから、涼太くんが気にしてくれるのはわかるけど、せめて、家事くらいは全部って、思ってたんだ」 彩女っちは言う、と決めたからか、真っ直ぐオレの目を見てそう言い切ったあと、すぐに目を伏せた。 「期待なんか、別に、してないっスよ」 俯いたままの彩女っちに向かって、ぽつりぽつりと言う。 「期待なんかしなくても、ずっと、彩女っちは、オレにとって、完璧なお姉さんっス」 「え……?」 「むしろ、完璧過ぎて困るっスよ」 彩女っちのどこをとっても、好きにならない理由がないんだから。 「もっと、手抜いていいんスよ。もっと、ダメなとこ、出していいんスよ」 そんなところがあっても、彩女っちのことは好きなんだろうけど。 「オレばっかり、かっこ悪いし」 「そんな、涼太くんはかっこ悪くなんかないよ!むしろ、涼太くんの方が完璧だから、私、取り柄なんてなんにもないし、」 「彩女っちはほんとに魅力的っスよ!」 「涼太くんは私を買い被ってるって!」 「買い被ってないっス!」 「私はそんな完璧な人間じゃないもの!」 「彩女っちが魅力的じゃなかったらこんなに好きで好きで堪らない訳ないじゃないっスか!!」 「え……?」 「あ……」 好感度を上げるどころか、軽い言い争い中で、むしろマイナスなところで、言ってしまった。 (20121011) ×
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