「彩女っちって、完璧っスよね」

「え?」


一緒に住めば住むほど、完璧だな、と思う。
見た目は普通にかわいいし、身長も低すぎる訳じゃなく、体型だって、ぶっちゃけ、簡潔に言ってしまえば、エロい。
気が遣えて、料理は上手くて、勉強も真面目、バイトも頑張ってる。
短所はと言えば、頑張りすぎちゃうところ?
でも、 非の打ち所がないと言っても過言ではない。


「彩女っちって、自分の嫌なとことかあるんスか?」

「それはもちろん、あるけど……どうして?」

「だって彩女っち、ダメなとこなんてないから」


普通だったら、えぇ〜そんなことないよぉ〜、なんて、それこそそんなこと思ってもいないのに、女子は答えることが多いが、彩女っちはオレの顔を見て、本心から言ってるのに気付いたのか、少し照れくさそうに眉を下げて笑った。


「そう思ってくれるのは嬉しいけどね、全然そんなことないよ。まだボロが出てないだけかな?」


ふふっ、とお茶目に笑う彩女っちだったが、一緒に暮らしていてボロが出ないなんて、そんなまさか。


「家で常に気張ってるってことっスかー?」


思わずジト目で彩女っちを見つめると、彩女っちは少し目を丸くしてからまた、ふふっ、と笑う。


「涼太くんは本当に優しいよね」

「ごまかすのはダメっすよ」

「ふふっ、ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど。うーんとね、たくさん嫌なとこはあるけど、やっぱり運動苦手なところが、一番嫌なとこかなぁ」

「苦手なんスか?」

「うん。足は遅いし、球技も苦手だし。正直、体育の授業はもちろん、体育祭もあんまり好きじゃなかったよ」


苦笑いでそう言うけれど、別に、彩女っちの事を嫌いになるような事では全然ないというか、マイナスになり得る要素に思えない。


「涼太くんの方がわたしは完璧だと思うけどな。運動出来るし、容姿も良いし、勉強も出来るでしょ?」

「って思ってたけど、実際勉強はあんま好きじゃないし、まぁまぁっスよ」

「でも、やれば出来るでしょ?」

「そりゃあ、まぁ……てゆうか、彩女っち、自分のこと可愛いって思わないんスか?」

「……え?」


ぽかんとした表情をして、まるでオレが何を言ったのか理解出来ない、とでも言うような顔をされた。


「……お母さんは、美人なんだけどねぇ。わたしお父さん似だから」

「いや、おじさん可愛い感じだから、彩女っちも可愛いじゃないっスか」

「えぇ〜」


彩女っちが眉を寄せてオレを見るなんて初めてだ。
ちょっと傷つきつつも、あの美人なおばさんの娘だから、色々コンプレックスを感じたりもしたんだろう、となんとか自分を納得させる。


「彩女っち、もっと自分に自信持ってもいいと思うっスよ」

「持てないよ〜。涼太くんわたしのこと買い被りすぎ。わたし全然完璧じゃないからね」


この話は終わり、とでも言う風に立ち上がって、自分の部屋へと向かって行ってしまった。





「ーー涼太くん、わたしに幻想を抱きすぎ」


自分の部屋に入って、ドアを閉めたところで小さく呟く。
家事とかが苦じゃないのは本当だけれど、ここまで頑張ってしまうのは、やっぱり涼太くんがわたしのことを完璧なお姉さんだと思っているから。
小さい頃から慕ってくれていたから、仕方のないことかもしれないけれど。
小さくため息を吐いて、課題をやろうと気持ちを切り替えた。



(20120918)

×