「家事の分担とか、どうするっスか?」


従姉弟の彩女っちと生活することになって、おばさんは家事なんて彩女っちがやってくれると言っていたけれど、まさか本当に任す訳にはいかない。
彩女っちだって、なるべく学費は払いたいからって、アルバイトも沢山するみたいだし、大学生は暇、なんてたまに聞いたりするけれど、彩女っちのことだから真面目に勉強もしそうだし、忙しいと思う。


「うーん……まぁ、まずはお互いまだ生活リズムも出来てないし、細かいことは追い追い決めてこっか?」

「んー、そーっスね。そんな感じで」

「じゃあ、とりあえず朝は一緒に食べよっか。わたしが用意するよ。で、帰りはまだわからないから、早く帰った方が用意する感じでいいかな?」

「了解っス!」


そんな感じで最初は決まったのだが、洗濯だとか、お風呂掃除だとか、気付いたら全部彩女っちがやっていて。
終いには、オレが早く帰ってきても、夕飯を作り置きしてある始末。


「彩女っちなんでもかんでもやりすぎ!」

「えぇっ、そう?手が空いたからやってるだけだよ?」

「って、最初は思ってたけど、彩女っちがゆっくり座ってるとこ見たことないっスよ!」

「え〜?今座ってるじゃない」

「座ってるけどなんかベンキョーしてるじゃないっスか!テレビ見たりとか、そういうこと言ってるんスよ!」

「う〜ん……でも、その時間がもったいないしなぁ……」

「そんなに時間がないならオレがやるから!彩女っちはごろごろしてて!」

「そういう意味じゃなくて、」


彩女っちは困ったように笑うと、わたし、何かやってないと落ち着かないんだよね、と言うから、それ以上何も言えなくて。
思わず不服そうな表情を浮かべると、やっぱり困ったような笑顔のまま彩女っちは謝った。


「ごめんね、涼太くん」

「……やっぱり、納得いかないっス」

「……気持ちは嬉しいんだけど……」

「だって、テレビ見るのだって、何かしてるに入ってるじゃないっスか。こう、自分のやりたいことを……やらなきゃいけないことじゃなくて、やりたいこととか、やって欲しいんスよ」

「涼太くん……」


少し沈黙が続いたあと、唐突に彩女っちが口を開いた。


「わたしね、苦じゃないんだよ」

「え?」

「うーん……やりたいこと、例えば、本を読んだりとか、音楽を聴いたりって、移動中とかでも出来るし。ご飯作ったり、掃除したりとか、そういう家事も、別に全然面倒じゃなくて。わたしがやることで、むしろ涼太くんには、時間が出来るでしょ?それが嬉しくて……」


そこまで言うと、一旦口をつぐんで、まとめの言葉を考える素振りを見せる。


「涼太くんの役に立ててるなら、わたしはいいの。毎日、とっても楽しいよ?」

「……」

「でも、涼太くんが気になっちゃうなら、これからはちょっと、お願いしよっかな。課題多い時とか、手伝ってもらっちゃうかも」

「も……彩女っちズルい!」

「えっ?なんで?」

「いいっスよもう!……ホント、なんかあったらすぐ言って!絶対っスよ!!」


恥ずかし気もなく、笑顔でオレの役に立ててるなら嬉しいって、むしろこっちが恥ずかしくなってしまったし、そんなこと言われたらもう何も言えないしで、ホントズルい。
でも、そういう風に言われて、嬉しくない訳がないから、それはそれでやっぱりズルい。


「うん。ありがと、涼太くん」


でも、彩女っちの笑顔を前にしたら、どうでもよくなっちゃって。
彩女っち、実は全然計算してるんじゃないの、なんて思った。



(20120913)

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