喜々として玄関へと向かった母親に嫌な予感はしたのだ。 休みの日だからとゆっくり起きて、朝ご飯は飛び越してお昼ご飯を食べ、宿題をやったら買い物でも行こうかなと、だらだらコーヒーを飲みながら携帯を弄っていたところだった。 「亜由美ちゃーん!」 母親に連れられて元気よくリビングに入ってきたのは高尾くんで、思わず言葉を失った私に構わず高尾くんは喋り続ける。 「ってか亜由美ちゃんスッピンじゃん!」 「あ…!ちょ、見ないで、ってゆうか、なんで来てんの!?」 「えー隠さないでもっと見してよー」 「やだってば!だからなんで!?」 「あぁ、部活が午前だけだったから、いるかなーって来てみた!」 「はぁ?いなかったらどうするつもりだったわけ?ってゆうかなんでお母さんも普通に入れてんの?」 「彼氏なんだからいいでしょ!休みの日だからってそんな格好で居るのが悪いんだから」 ルームウェアにスッピン、髪の毛もなんもやってない状態は、高尾くんじゃなくとも見せられるものじゃない。 両手で顔を隠したまま部屋へ逃げながら、去り際にとっとと帰ってと言うと、お母さんの咎める声が聞こえたが、そんなの無視だ。 顔から火を吹いてるんじゃないかと思うほど恥ずかしくて、部屋に飛び込んで熱い頬を気休め程度に手で扇いだ。 でも残念ながら、私の部屋には鍵などついていない。 すぐに追って来た高尾くんが、ガチャリと開けて入ってきた。 背を向けて顔を見せまいと立っている私の首に腕を回し、ぎゅっと抱きつかれる。 「つーかまえた!」 「いや離せ」 「やだ。なんで隠すの?かわいいってば、赤ちゃんみたいで」 「だからそれが……!?」 童顔なのが嫌なんだって、と訴えようと高尾くんを見ると、頬にちゅっと口づけされる。 それに動揺した隙に胸へと手が伸びてきてもにゅもにゅと揉まれた。 「やっぱりこの下、なんもつけてない?」 「ちょ、やめて…きゃっ」 「ほら、勃ってるのよくわかる」 きゅっ、と布地に浮き出てしまった胸の頂きを摘ままれて悲鳴を上げる。 身を捩っても後ろから抱きつかれている状態では逃げられず、高尾くんの腕を離そうと掴んだところで、再びドアがガチャリと開いた。 「あらっ!お邪魔しちゃった?」 「いやいや、大丈夫っすよ!」 「ちょっと、早く離してよっ…!」 「えー。やだ」 「は?ふざけ、」 「お母さんちょっとお買い物行ってくるから」 「えっ!?待って、私も…」 「お兄ちゃんについてきてもらうから、2人でお留守番よろしくね」 「は!?ちょっ、」 「せっかくなんだから2人きりの方がいいでしょ?じゃあね」 実にあっさりと、娘の貞操の危機だというのに、私の言葉なぞ聞く耳持たず、無情にもバタンとドアは閉められてしまった。 絶望を感じながら名残惜しくドアを見つめると、高尾くんが耳を舐めながら喋る。 「なに?亜由美ちゃんは誰かいた方が興奮すんの?」 「やっ…んな訳ない、でしょ…!ひゃっ」 服の上から胸の飾りを舐められ、歯が立てられて、思わず高尾くんにしがみつく。 するとそのまま高尾くんの手が服の裾から入り込み、直接乳房を弄ばれた。 「も…っ、なんで…?」 どうして私にこんなことを。 高尾くんには喜んで相手をしてくれる女の子がいるのに、わざわざ私に手を出そうとする意味がわからない。 私は別に高尾くんが好きな訳でも、身体を安売りしている訳でもないのに。 「そりゃあ、亜由美ちゃんがかわいいから」 「はぁ?わけわかんなっ…べつにっ、かわいくない、し…っん」 「まぁいいじゃん。亜由美ちゃんだって気持ちいいっしょ?」 ズボンごと下着を下ろされて、現れた秘部に顔を近づけるように高尾くんは膝をついた。 羞恥心の溢れる状況にそこから逃げようとしたが、腰に腕を回されて逃げられない。 「ちょっ、まっ…なにする……ひあっ!」 下から丁寧にべろりと、高尾くんの舌に陰核を舐められて、腰と膝が震えた。 高尾くんの頭を掴んで引き剥がそうとするも、上手く手に力が入らない。 「ほら、脚開いて」 「開くわけな、きゃっ…!」 抵抗することなんて目に見えていたのか、反論の言葉を最後まで聞かず、性急に私を抱き上げた。 そのままベッドの上へ落とされ、もうダメだと、観念するしかなかった。 最初、初めて高尾くんに襲われた時は、そこまで関わりのない人だったから、強く抵抗することがどうにも憚られた。 2回目は、彼を信用してしまったという私の落ち度が原因で、混乱したまま考えることを放棄し、仕方ないと抵抗するのをやめてしまった。 だが、今回はもう最初の頃のような仲じゃない上に、不本意ながら仲が良いと言うか、暴言を吐けるまでの関係になっているのだ。 緑間くんの眉を寄せた顔が頭に浮かんで、さすがに3回目はシャレにならないと、自分なりに今までで1番抵抗した。 それでも、最初はイタズラのような雰囲気だったのに、こんな、ソウイウ雰囲気に持ってかれてしまうと、抵抗もし辛くなるし、したところで無駄なのだ。 こうやって結局諦めてしまうのが、私の悪いところだとは思う。 ふう、と息をついた私に気付いた高尾くんは、目を細めて満足そうだった。 それに、このやろう。と思うよりも先に、仕方ないなぁ。と情が湧いてる自分に気がついて、心の中でげんなりした。 「キス、していい?」 「……いちいち聞かないですれば?」 高尾くんとのキスは、する度に嫌いじゃなくなってきている気がする。 私の唇を食んで、口内に入り込んできた舌に優しく愛撫される。 それに身体全体が熱を持って、つい心地良さから自らの舌を絡ませてしまう。 「亜由美ちゃんかわいい」 「は…趣味わる」 「んなことねーって。ね、脱がしていい?」 首筋にキスをしながらそう言った高尾くんは、顔を上げて私と目を合わせた。 何を思っているのか全く読めなくて、ただ真っ直ぐに聞いてきているようにしか見えない。 この目になぜだか私は弱いから、少しの不満を表すように、目を反らして頷いた。 でもどんな反応をするのかは見てみたくて、チラリと顔を見上げると、嬉しそうにしている高尾くんが見えたから調子が狂う。 そういえば、しっかり洋服を脱ぐのは初めてだ。 私のことを脱がしたくせに、自分は脱がずにじろじろと見てくるものだから、仰向けから横向きへと変えた。 「あんま見ないで」 「ワリ。つい、きれいだったから」. 「は?ないわ」 高尾くんが言うかわいいとかそういうのは、女の子がすぐにかわいいと言うのと一緒だ。 冷たくあしらって高尾くんから目を反らすと、衣擦れの音がして、少ししてから彼の素肌と私の素肌が重なった。 知り始めた快楽に興味がないとは言い切れない。 けれど、一応ただの友達である高尾くんとこういう行為をすることには嫌悪感がある。 なのに、高尾くんに身体を弄られてしまえば、流れたくなる気持ちも生じてしまう訳で。 こんな複雑な気持ちを抱きながらも、断れない私に選択肢はないのだから、余計なことを考えるのはいつも通り、やめることにした。 (20130111) ×
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