元々ただのクラスメイトとして、高尾くんと話すことがなかったわけではなかった。
でも私から話しかけた訳でも、彼から話しかけてきた訳でもなく、私の友人が高尾くんと仲が良かったから、その輪の中で高尾くんが話を振ってきたことがあった程度。
だったのに、あんなことがあってから高尾くんは、わざわざ私の机に来てまで話しかけてくるようになった。
最近なんで仲良いの?と、友人に聞かれてしまって、私は否定したし実際仲良くなんてないのに、高尾くんは亜由美ちゃん気になるんだよね、とか言いやがったから、一気に噂が広まってしまって、知らない奴にまであれが高尾の……とか言われる始末。
一体高尾のなんだよ、なんでもねーよ、と機嫌悪く友人に愚痴る中でも、高尾くんが入ってくる。


「なーに話してんの?」

「お前のことだから入ってくんな」

「マジ!?照れるなー」

「いや褒めてた訳じゃないから」

「亜由美ちゃん最近ますますオレに冷たくね?」

「ってゆうか名前呼びやめて、きもい」

「なんで?かわいいじゃん、亜由美ちゃん」

「高尾くんに呼ばれると悪寒がする」

「それヒドくね!?」


実際ヤリチンなことを除けば悪い奴じゃなのは、よく話すようになってわかった。
だから、友人だったけれど好きになって、身体の関係を持ってしまう子がいたり、セフレがいるような男だってわかっていても、一途に想いを寄せてしまう子がいるのだ。


____________________


「亜由美ちゃん、だよね?」


そう話しかけてきたのは、どこかで見かけたことのある違うクラスの、ギャルな女の子たち3人だった。
しっかりとした面識がないのに私のことを知っているのは、どう考えても高尾くんの所為。


「うん…そうだけど」

「亜由美ちゃんってさ……和成の彼女じゃないよねぇ?」


かずなり?あ、高尾くんのことか。と頭の中で考えた分、一拍置いてから否定した。
そういえば、話しかけてきた女の子と高尾くんが、廊下で喋っていたところに通りかかって、高尾くんがひらひら手を振ってきたことがあったな、と思い出す。


「亜由美ちゃんと和成って、どういう関係?」

「え……友達?」


同じクラスなだけだと答えるには、彼と話すことが増えたし、彼のことも知ってしまったと思って、不本意ながら友達という単語しか浮かばなかった。


「でも、和成は……亜由美ちゃんのこと、好きなんだよね?亜由美ちゃんは和成と付き合う気はないの?」

「え、いや……高尾くんは私のこと好きじゃないよ?」

「でも、和成は亜由美ちゃんにはよく話しかけてるんでしょ?私とか、そんなことないし……」

「ううん。なんか、高尾くん楽しんでるだけで、好きだからじゃないよ、ほんとに」


何が楽しいのかはわからないけれど、少なくとも私と絡んでて楽しそうなのはわかる。
ただ、そこに恋愛感情があるかって言うと、そんな空気は微塵もない。


「あんな感じだから」


そう言って指差したのは、今緑間くんと喋っている高尾くんの方。
すぐに大笑いする高尾くんは、緑間くんと喋りながらヒイヒイ言っていて、緑間くんが苛立っている気持ちがよくわかった。
私と喋っていてあそこまで爆笑することはないけれど、高尾くんのあのヘラヘラした態度は、何笑ってんだよ、何がそんな面白いんだよ、と思ってイライラする。


「え、なにそれ。和成超失礼じゃん」

「うん、失礼、うざい」

「アハハっ。ごめんね、変なこと聞いちゃって」

「ううん、大丈夫だよ」

「和成にはさ、友達に軽く聞いてもらったんだけど、軽く聞いたから返しも軽くて、どう思ってるのかやっぱりよくわからなくて、ごめん」


どうやら話しかけてきた子が高尾くんのことを好きで、一緒にいる2人は付き添いのようだった。
私の友人といい、この子といい、こんなに可愛い女の子達の気持ちを手に入れておきながら、軽い気持ちで接して、身体まで重ねているであろう高尾くんは、やはり信じられないというか、女関係においてはクズだ。


____________________


いつもと変わらない朝で、めんどくさいなぁと思いながら化粧をしていた時のことだった。
朝からインターホンが鳴って、母親が対応したかと思うと、慌ただしく玄関へ向かって行った。
しかも、とても気になる発言を残しながらなので、思わず手が止まる。


「ちょっと亜由美!彼氏来てるよ!」


彼氏?は?誰のこと?と、頭の中で疑問がぐるぐる回りながらも、化粧はあと少しで終わるので再開する。
玄関から聞こえてくる母親の声と、それに応対する彼氏とやらの声を聞いて、まさか、と思うと、上がって待ってて、なんて言う母親の声が聞こえてきた。


「あ!おはよー亜由美ちゃん!」

「……高尾くん…なんで…」


そう聞きながら、化粧は完成していてよかった、ともう一度ちらりと鏡を見て確認する。
中学時代の友達以外にすっぴんは見せたことがないし、結構童顔なので気にしているのだ。


「放課後はなかなか一緒に帰れないからさ、朝練ないし迎えに来た!一緒に行こーぜ」

「は?やだ」

「ここまで来たのに!?」

「いやなんで来てんの」

「亜由美!わざわざ来てくれたのにそういうこと言うんじやないの」

「だって…」


反論したいけれど母親にコイツと何があったかという事情を話す訳にはいかない。
口ごもると高尾くんはしてやったりな笑顔を浮かべる。


「ほら、諦めも肝心だって!準備終わった?早く行こーぜ」

「……」


我ながら不満気な顔をしているだろうと思いながら玄関へ向かう。
後ろから母親の私を諌める声と高尾くんに謝る声が聞こえてくるが、朝から本当に不快な気分にさせてくれる。


「ゴメン、やっぱ怒ってる?」

「当たり前でしょ」

「亜由美ちゃんさ、最近オレのことそこまで嫌いじゃないかなって、調子乗って来ちゃったんだよね。ダメだった?」


そんな風に真顔で聞くのはずるい。
最初にあったあの時のことも、もうそこまで気にしていないし、ただ顔を合わせると高尾くんのキャラ的にイライラするだけで。


「…まぁ、別にいいけど。なんでわざわざ来てんの」


高尾くんの家の場所がどこかは知らないけれど、いくら私と話すのが楽しいのだとしても、学校で話せばいい話だし、ここから学校まで一緒に行くほどではないと思う。
すると高尾くんは真顔な表情から、ワンテンポ遅れて笑顔に変わった。


「そりゃもちろん、亜由美ちゃんともっと話したかっただけだって!」

「…ふぅん。物好き」


んなことねーって!と、いつものように否定してから、またべらべらと喋り出した。
それに素っ気なく言葉を返すだけなのに、何が楽しいのだろうか。
それでも、基本的に考えても答えが出ないことを考えるのは面倒で、まぁいっか、と流すことにした。
ここで流すべきではなかったのかもしれないなんて、後で少し後悔する羽目になるのだけれど。


(20121129)



×