「ほんっとゴメン!!」 高尾くんは挿入の際に痛がった私にようやく処女であると気付いてから、少し性急だった行為を優しくしてくれた。 それでも高尾くんが射精する迄は付き合わされたので、終わった後の下腹部の痛みに顔を歪めながら服装を整えると、高尾くんがさすが体育会系と言いたくなるような角度と素早さで頭を下げた。 「いや、マジで、まさか処女だとは思わなくて……ほんとゴメン!!」 「……まぁ、過ぎたことだし、別に……痛いけど」 私自身、そこまで貞操観念が高い訳ではないようで、どうせいずれは経験するのだと割り切るのは早かった。 だから、処女を奪われたことよりも下腹部の痛みが気になって仕方なく、痛いと訴える声が多少恨みがましくなったと思う。 「送ってくから!」 「は?」 「身体辛いだろうし、付き添い」 人の良さそうな笑顔でそう言われたけれど、生理痛のような鈍痛に苦しんでいる時に、今日知り合ったばかりで、好意を抱いてもいない上に、襲ってきた人と一緒に帰る気なんて、普通起きないだろう。 ところが彼は私のカバンを持ってしまい、途端に断り辛くなる。 「カバン、いいよ」 「じゃあ、オレと帰ってくれる?」 確信犯だ。私が断るのが苦手なことは、とっくに見透かされていたらしい。 まぁ、それで処女まで捧げてしまった訳だから、当然と言えば当然かもしれないが。 「別に、面白くもなんともないよ」 「そんなことないって!オレ若原サンと仲良くなりてーし」 処女奪っといてか。なんて心の中でツッコミを入れつつ、こんなことも今日これきりだろうと割り切り、一緒に帰ることになった。 「つーか、なんで若原さん処女だったの?彼氏と別れんの早いとか?」 「いや…彼氏いたことないし」 「マジで!?なんで!?」 「なんでって言われても……」 「若原さん普通にかわいいのに……だから彼氏いそうに見えるってことか……?若原さん、自分から告白するタイプじゃないもんなぁ……」 推定のように言っていたけれど、同意を求めるようにこちらを見たので返事を返す。 「まぁね…でも好きな人も特にいないから」 「でも、それにしてもさ、告白は?されねーの?」 「されても好きな訳じゃないし、付き合わないよ」 「なんで?とりあえず付き合ってみりゃ好きになるかもしんないじゃん。彼氏欲しいとか思うっしょ?」 「思うけど……好きじゃない人と付き合ったってめんどくさそう」 「…若原さん、結構サバサバしてんよなー」 「そう?」 「そ。だからいいなーって思って今日誘ったし」 その口振りが軽すぎたので、誘ったというのはセフレになろうと言ったことではなく、一緒に帰ろうと誘ってきた方じゃないかと思ってしまった。 しかし、彼の言動は少なくとも私が知っている限り、どんな時でも薄っぺらく見えるので、そんなことはないだろうと思い直す。 「つーか好きな人いないってことは、理想高いとか?好きなタイプは?」 「…理想高いわけじゃないと思うけど、尊敬出来る人がいないから、どこか尊敬出来ないと惹かれない」 「へぇ〜。じゃあ年上とかじゃないとムリ?」 「そうじゃないけど、同い年に尊敬出来る人って、中々いないから」 「いるっちゃいるんだ?」 「勉強も部活も凄い人とか、秀徳なら何人かいるでしょ」 「あ、真ちゃんとか?」 「え、だれ?」 「緑間真太郎!」 「あぁ……」 凄いとは思うけど恋する対象には入らないでしょ。 そう思ったのが伝わったのか、高尾くんはおかしそうに笑った。 「まぁアイツは変人だもんなー」 「……」 「でもな、やっぱり、本当にスゲー奴なんだよ」 「……キセキの世代だっけ」 「え、そうそう。なんで知ってんの?」 「友達が黄瀬くんのファンだから」 「あー。そういうことね」 彼は私に興味があるらしく、いくつも質問を投げかけてきて、ある意味楽しそうであるが、私からしたらいちいちめんどくさい。 お腹が痛いのも重なって、イライラして返す声が少しずつ低くなる。 「おんぶしよっか?」 「えっ?」 「お腹痛いっしょ?」 いつだってふざけてるんじゃないかと思うあの笑顔じゃなく、真顔で言われたから反応に困ってしまった。 もちろん恥ずかしいから断ったけれど、もしお願いしていたら本当にやってくれそうだった。 「今まで好きになった人ってどんな感じ?同い年にはいた?」 「いたけど、基本年上だったかも」 「やっぱそうだよなー。でも若原さんならコクれば付き合えたんじゃね?」 「まさか。彼女いたりするし、最近だと奥さんいるってわかって冷めた」 「……やっぱ、若原さんいいなぁー」 「何が」 「そういうすぐ割り切れるとこ、オレ好き」 「あ、そう」 「つめてー!」 でもそういうのがいーんだよな、なんてまた笑った。 この無邪気そうな笑顔が女の子に人気らしいけど、胡散臭いったらないと思う。 「よかったらまた一緒に帰ってくんね?」 「え?」 「若原さんと話してんのたのしーし、オレ若原さんみたいな人好きだから、仲良くなりてーなー、なんて」 「……でも、部活、あるよね」 「あー…まぁ、予定合う時でいーから!若原さんオレのこと嫌いっしょ?部活休みん時ってほとんどないから安心して!」 いや嫌われてんのわかってんなら誘うなよ。 でも高尾くんは私がそう思ってるだけで口には出さないのをいいことに話を進める。 わかってないならまだしもわかっていることがまた私の苛立ちを助長させた。 「ホント今日はゴメン!最低な奴だって思ったと思うけど、イメージ払拭させる為にもオレ、がんばるからさ!」 がんばらなくていーってば。もう、関わりたくないんだけど。 私のこの思いはもちろん無視されて、高尾くんは次の日から私に話し掛けてくるようになるのだった。 (20121116) ×
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