「ってゆうか、いきなり来ちゃったけど、時間とか大丈夫っスか!?まぁ、オレはちょっとでも会えただけで嬉しいけど、でも、」

「でも?」

「……抱きたい」


真剣な顔つきだけれど、欲に濡れた目を向けられて、つい一言。


「えっち」

「それ百合に言われるとほんと燃えるんスけど。もう攫いたい」

「涼太って、言葉も行動もクサイ上に、ちょっと変態だよね」

「え……オレ泣いていい?」

「冗談だってば。まぁ、それでも好きだから安心して」

「なんか、スゲー複雑なんスけど……」

「ふふ、ごめんね」


ふて腐れた顔で私を見る涼太の頭をゆっくり撫でる。


「大丈夫。今日は1人の予定だったから」

「ホントっスか!?」

「うん、本当」

「よかった……」


涼太は嬉しそうに運転席から私を抱き締める。
私も腕を回して抱き締め返すと、私の肩に顎を乗せた涼太は、やるせなさそうにため息をついた。


「このまま帰したくない」

「気が早い。まだ、朝までは一緒でしょ?」

「百合といると、すぐ時間が経つから。あっという間っスよ……」


ぎゅーっと力を込められて、嬉しいけれど少し痛い。
でも、気持ちがこみ上げてくるのはよくわかるから、私も離れたくなくなる。


「このまま、どっか、2人で消えちゃいたいなぁ……」

「愛の逃避行っスね」

「そう。誰も2人を知らない遠くまで……私がそんなロマンチックなこと望むなんて思わなかったなぁ」

「百合は元からロマンチックじゃないっスか」

「否定は出来ないけど、違うの。そうなろうと思えばなれる立場なんて、初めてだから」


身体に回されている腕の力が弱まった。
名残惜しいけれど離れると、涼太はすぐにハンドルを持って、車を走り出させる。
いつもより速いスピードに、少し焦ったような顔。


「涼太?」

「……こんな盛ってんの恥ずかしいんスけど、早くもっと触りたいから、急ぐっスよ」

「……久しぶりだもんね、会うの」

「それに、百合からは連絡ないから、正直ちょっと凹んでたんスよ?」

「ごめん。私そういうとこ素直じゃないの」

「まぁ、知ってるっスけど……あー!ほんとこのままどっか行きたい!!」

「でも、奥さんを捨てて私を選べないでしょ」

「……」

「……ごめんね。意地悪言った」

「いや、そういうつもりじゃなかったの、わかってるのに、オレこそ、」

「謝らなくていいよ、私もわかってるから」


2人で居たいのは、本当だ。
だけど、それが許されないのはお互いわかっているから、私の冗談に彼は少し固まった。
冗談だってわかっていても、そういう未来の話を私たちはあまりしないから、動揺するのも無理はない。


「……ちょっと、遠出しないっスか?」

「え?」

「今夜だけ、愛の逃避行」


運転しながらチラリ、とこちらを見る涼太の、目尻だけ長い睫毛が、彼を怪しく彩る。
乗ってみるのも悪くない、というか、きっと彼とだったら何処へでも行ける。


(20120921)
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