彼とは身体の関係だけではなかった。
出会ったその時はお互いが欲しくて堪らなかったけれど、ただ二人でいるだけでも十分に心地良くて。
休日に、知り合いに見られないよう、少し離れたところでデートするだけでも幸せだった。

夜まで居られればそれはもちろんそういう事になるけれど、お互い家に相手がいるから、デートだけで帰る事も普通にある。
それでも、その一日はとても充足感に溢れていて、夫と過ごしているのも穏やかで、何も不満なんてないのだけれど、彼と居るのはそれ以上に心が躍って、まるで夫とまだ付き合っていた頃のような気持ちだった。


「何、考えてるんスか?」


今日は朝まで一緒。
早々にホテルに入ったので、まだ日付は越えるか越えないか辺りで、既に一度身体を重ね合わせ、ベッドの中で微睡んでいた。


「んー……涼太のこと?」

「なんで疑問系なんスか」


少しむくれた彼につい笑みが溢れる。


「嘘じゃないよ」

「当たり前っスよ。オレと居る時はオレだけを見ててくれないと」

「……涼太って、結構クサイ台詞を普通に言うよね」

「え」

「まぁ、カッコイイから似合うけど」


そう言って彼の頬を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
枕に埋まっている彼の、産毛まで見える横顔が綺麗で、つい口付けた。


「百合……」

「ん……」


そのまま顔をこちらへ向けて、舌を絡ませようとする彼に応える。
気付いたら体勢が逆転して、また私が下にいた。

ペロリ、と鎖骨の辺りを舐めると、ちゅっ、と口付けながら段々と下がっていく彼の頭に、そっと手を添える。
さっきシたばっかなのに、私も彼も燃え上がるのが早すぎる。


「本当は、付けたいんスけどね」

「っ……なに……?」

「キスマーク」

「りょ、うた……あっ、」


胸の先端を舐められて、声が漏れる。
私は恥ずかしいから、喘ぎ声を上げるのは好きじゃない。
夫は可愛いから声出してよ、なんて言うのだけれど、彼は違う。
恥ずかしがる私から、無理矢理声を出させるのが好きらしく、いやらしい手つきで私を翻弄する。
それに流されてしまって、気付いたらあられもなく喘いでしまっているのだけれど。


「でも、旦那さんに愛されてるみたいっスね」


そう言って彼は、胸にいくつか付いていた、夫が付けたキスマークの上に唇を寄せ、軽く吸い付く。


「涼太……?」

「上から付ければ、バレないっしょ」


ちゅう、と吸い付く彼を、止めることはできなかった。
背徳感が私の身体の熱を上げて仕方ない。


「百合って、エロいってゆーか、いやらしいこと好きでしょ?」


そう聞いてくる涼太の顔が、1番いやらしい。


「……そんな、こと……」

「嘘。百合、興奮してる」

「……自分でも、よくわからないよ……」

「……オレが、初めて?」

「……」

「かわいい、百合」


沈黙は肯定なんて、まさにその通り。


「ーー涼太だって、愛されてるじゃない」

「え?」

「付いてる、キスマーク」


顔を上げた彼の鎖骨に、小さく付いてるキスマークを指で撫で上げる。


「……オレの奥さん、独占欲強いから」

「……なのに、こんなことしてていいの?」

「ーーこんなの、百合が初めてっスよ」


決まり悪そうに視線を反らした彼が、愛しくて愛しくて。


「……百合も、付ける?キスマーク」

「……いいの?」

「もちろん」

「……でも、私……付け方わからないんだけど……」


今度は私が目線を反らすと、ぶふっ、と噴き出す声がして、恥ずかしさから身を捩って枕に顔を埋めた。


「ごめん、百合。こっち向いて」

「いや」

「百合が可愛くて、つい」

「知らない」


すると、首筋にねっとりとした感触。


「あんまりオレのこと、煽んないで」

「涼太……」

「付け方、教えてあげるから。こっち向いて」


渋々顔を向けると、彼はとても愛しげな顔でこちらを見て笑っているから、なんだかほだされてしまう。
これ以上彼にハマったらいけないって、私の直感がそう言ってる気がしたけれど、そんな直感に従える訳がなく、彼にますます溺れていくしかなかった。


(20120918)
×