火傷したいわ。
そう思う程に、彼に恋い焦がれた。

私には、夫がいる。
彼には、妻がいる。

でも、そんな事で我慢できるような感情ではなかった。
赤い糸を手繰り寄せてみたところで、辿り着く指先は彼じゃないのだろうけど、彼じゃなかったとしても構わなかった。



初めて彼に出会った時、一度目を合わせたその瞬間に、もう私達は恋に落ちていた。
その場では紹介してくれた人もいたから、簡単な挨拶を交わしただけだったけれども、熱の籠もった視線が絡み合う。

こんな、直感みたいなことが、本当に起こるとは思わなくて、その時はまだ、半信半疑ではあった。
けれど、彼は至って自然に連絡先を交換しようと提案してきて、その後、すぐに連絡が来た。

互いの予定が合った夜、迎えに来た彼の車に乗り込み、目を合わせた瞬間、身体を性急に引き寄せられて、唇が重なった。
私も自然と彼に手を回して、深くなる口づけに酔いしれる。
こんなにも身体が熱くなって、こみ上げてくるようなキスは初めてで、夢中で貪りあった。


「ーーどうして、」


軽く唇が離れた瞬間に、吐息とともにそう呟くと、彼は唇に弧を描いて言った。


「そんなの、愚問っスね」


指輪のついた手で、私の頬を撫でる。


「オレが、欲しいんでしょ」

「……黄瀬さん、」


呼びかけると、唇に指を当てられて、耳元で低く囁かれた。


「涼太」

「……りょう、た」

「そ。オレが、欲しいんでしょ。百合」


同じ言葉を繰り返したが、違うのは、最後に私の名前を呼んだこと。
名前を呼ばれることが、ここまで甘美な響きを持つなんて、身体が震えそうだった。


「ーー涼太が、欲しい……」

「……オレも、百合が欲しい」

「ん……」


再び重なった唇は、先程よりももっと熱くて、唾液が絡まる卑猥な音が車内にこだまし、更に私たちを興奮させる。


「ーー今夜、帰らなくても大丈夫っスか?」

「……今日は、夫、帰ってこないんで……」


その言葉を聞いて彼が浮かべた笑みの色気に、この後の事を期待した。
自分がこんなにいやらしい女だったなんて、知らなかった。





何度も身体を重ね合わせて、最後の方の記憶はもうない。
ただ、目覚めた時の身体の気だるさでさえ、心地よいものだった。
私を抱きしめて寝ている彼に、また欲情してしまいそうで抜け出そうとすると、私の動きによって目が覚めたのか、ゆっくりと瞼を持ち上げた。


「ーー朝、っスか……」

「……おはよう」

「……おはよ」


脱ぎ散らかした服を拾おうと、ベッドから手を伸ばそうとすると、彼に手首を掴まれる。


「もう1回……ダメっスか?」

「……」


そんな情欲に濡れた目で彼に見つめられて、私もその気にならない訳がなく。
朝からこんな行為をするなんて、何年振りだろうか。
少なくとも、結婚する前なのは間違いないし、あれだけ夜中にしたにも関わらず、朝もそんな気になるのは、やはり初めてだった。


(20120913)

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