お腹が空いたの。
でも、
食べることが出来ないの、よ?



***



「シェフ?何か顔色悪くない?」
「…気にするな」



俺は(珍しく気の利いた)審判小僧に向かって放った。
(最近ほんとに何も食べてねーから、無理もない)
俺は少し、溜息をついた。



「シェフ?」
「…タクシー、なんだ」
「…具合、悪いの?」
「別に大丈夫だ」




俺はタクシーの肩を叩いてみせた。
タクシーの不安そうな顔は、全く変わらなかった。
(全く、そんな顔するなら、食べさせて?)
俺はまた一つ、溜息をついた。




「…ジェームス」
「あーっ、シェフ!遊んでよー!」
「こら待てジェームス!」
「わ、おじいちゃんここまで来てる!じゃまたね、シェフ!」



ジェームスは跳ねるようにグレゴリーから逃げていった。
きゅう、とお腹の虫が、泣いた。
(泣かないで、おれのお腹)
俺は小さくお腹を撫でた。確かに、痩せたかもね



「シェフ、顔色悪くない?」
「…大丈夫、何ともない」
「…そうかしら?」



キャサリンは怪訝そうな顔をした。
(お前には、そんな顔似合わねえよ)
俺は心の中で少し毒づいた。
また、きゅう、と俺のお腹の虫が、泣いた。




(…俺が飯食べなくなってから、何日だろう)



誰かが、「食べても良いよ」って言った気がした。
(まぁ、幻聴が聞こえるのも、無理はない)
精神的に参ってしまっているのだと思う。
たぶん、お腹の空きすぎで。
お腹って空きすぎるとお腹すいたって感覚、なくなっちゃうよね。
前にジェームスが自分のお腹を見つめながら、言っていた。
俺の今の状態は、たぶん、それ。
(というか、そうだと思わなければ、死んでしまう)



「シェフ、だいじょうぶ?」
「おい?」
「シェフ?」




やめて、やめて、俺の目の前に、いないで。
神様はきっと、二人いるんだと、おもう。
優しい優しい神様と、残酷で、酷すぎる神様。
(たぶん今は、残酷な方の神様だ)
俺はゆっくり、自分の腕に目を落としてみた。



甘美なユニコーンの口笛

(ああ、ついに俺は狂ってしまったのか)
 (いや、狂ってしまったのは)
(あれを食べるようになってからか)

    (ああ、お腹が空いた)



「まだ食べるもの、あるじゃない」



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ものすごく気持ち悪い作品
あー、吐き気が止まらん

最終的にシェフは自分を食べます

苦手な方はすみませんでした!