小気味良い音を立てながらシャーペンが問題集の上を滑る。
暫し静かな時間が流れ、また小気味良い音を立てながら問題集に数式を連ねてゆく。
しばらくして問題を全て解き終えたのか、阿部はふいと顔を上げた。
すると向かいには自分と全く同じ数学の問題を解く栄口の姿があった。
阿部と違って文系な栄口だ。なかなか問題が解けなくてきっと彼の頭の中はこんがらがっているだろう。以前に数式を組み立てるのが楽しいのだと阿部が言うと栄口は苦虫を噛み潰したような表情で全否定した。
そんなことをぼんやり考えていると、栄口は数式を解くのが飽きたのかペンを弄んでいる。
「栄口、」「ん、何?あべ」「口、切れてる」「…あ、ほんとだ」
なにせ毎日長時間日の当たる場所で運動しているのだからこういう事態はいたしかたないのだが、改めて見てみるとなかなか痛々しいものだ。
「…痛くねえの」「んー、もう慣れっこってやつかな?それに俺がリップクリームとか、気持ち悪いでしょ?」
から、と笑みを零しながら栄口が言う。(別に栄口なら何でもいい)と思った自身はもう末期なのかもしれない、と1人でにぐるぐる思考を張り巡らせていた。当の栄口に目を当てると自身の唇に指を当てて血を拭き取った瞬間、さも当たり前かのように指に舌を這わせた。「うわ、鉄の味がする」などという栄口の独り言は誰にも拾われることなく部屋に落ちて行った。

「え…と、あべ?」
「何」
「いや、この体制…さ、おかしくない?」
「どこが」
阿部が栄口に跨り、半ば押し倒す形になりながら短いやりとりは続く。
「ちょ、離してっ…ん、ぅ」
阿部の肩を押して必死の抵抗をするが、それも虚しく阿部の左手に絡み取られてしまった。お互いの唾液がわからなくなる頃にはもう栄口の理性はゆるゆると痺れかけていた。栄口の短めの髪をゆるく撫でながら、シャツを捲りあげわき腹を優しく撫でたとき、栄口の理性は目を再び覚ました。まだまだ数学の課題は残っている。このまま流されて最後まで物事を済ませてしまうのはまずい。首を横に振って小さな音を立ててようやく唇を離すと、かなりの至近距離で阿部は生まれつきのたれ目と不機嫌な顔で栄口を睨んでいた。
「んだよ」
「いや、何やる気になっちゃってんの?!」
「悪りいかよ」
「悪いよ!…ほら、課題とか、済まさなきゃ、だし…。」
「…ち」
まるで三橋のようにしどろもどろに話す栄口に舌打ちをして、再び机に向かう。暫くして、また一定のリズムでシャーペンの動く音が部屋に響いた。沈黙のなか、最初に口を開いたのは阿部だった。
「お前、外で口切れても舐めんじゃねーぞ」
「…へ」
「お前すっげエロいから」
「〜〜っ!!」
みるみるうちに真っ赤になる栄口と、それをみてくつくつと喉を鳴らして笑う阿部。
そして絶対にリップ買ってやる!そう栄口が決心したのも時間は必要なかった。





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