死んだ魚のような瞳が、少し動いた気がした。
少しくすんだ赤色の綺麗なその瞳は、何も反射させない鏡のようだった。

「シープ」
「あ、坊や?」

僕がいる方向とはまったく逆の方を見る彼が、すごく痛々しかった。
僕は笑顔で彼に近寄っていった。

「シープ、こっちだよ」
「あ、こっちか。ごめん、坊や」

彼はそっと僕の頬に手を触れる。
小さく、か細い、褐色のその手は、彼が生きているのか判別出来ないほど冷たかった。
僕は小さく笑いながら、彼の頭をくしゃりと撫でてやる。
すると彼は決まって、くすぐったそうに目を細めるのだった。

「どうしたの?いきなり会いに来て」
「シープに会いたくなったの」
「ふふ、坊や変なの」

彼はさも可笑しそうにくすくすと笑っていた。
さっきまで死んだ魚のような目をしながら、空を仰いでいた彼からは、想像が付かないほど、笑っていた。
僕は彼の目の下をそっと拭った。(泣いてたの、バレバレだよ)
彼の頬を濡らしたその雫は、キラリと光って、溶けていってしまった。
僕は彼をそっと抱きしめた。

「坊や、何?」
「…もう慣れた?生活には」

彼は乾いた声で少し笑ってから、僕を抱きしめ返した。
そして、僕の耳元に向かって、小さな小さな声で、呟いた。

「生活には慣れたけど、坊やの顔が見れないのが悲しい」
「シープ…」
「坊や、今坊やは笑ってる?」

(昔からある怪我のあたりがどくんと疼いた、気がした)
彼は僕を抱きしめる力をぎゅ、と強めた。
僕はいつの間にかこぼれ落ちていた涙を、ごしごしと拭った。
そして、彼に向かってにっこりと笑いかけた。(彼に、見えないとしても)

「笑ってる。笑ってるよ、シープ」
「坊や、強がらないでよ」
「あ、ばれてた?」

彼は、当たり前、と小さく言った。

「坊や、君、自分で思ってるより分かりやすいんだよ」
「…」

まぁ、君は元々分かりやすい人ですけどね、と彼は付け足した。
一言多いよ、と僕が言うと、彼は何も言わず、俺のほっぺにキスをした。
それがくすぐったくてくすぐったくて、俺は思わず笑ってしまった。

「ふふ、坊や、君は笑ってないとダメ」
「シープ、」
「俺の分まで、ちゃんと笑って?」
「…うん、分かった」

彼は寂しそうに笑ったのだった。


夢の中にてロマンス


(夢でまた逢いましょう?)







・・・・・・

20130114

盲目シープちゃんと坊や