「俺さ、いつか喫茶店ってやつに行きたいんだ」 どうして? 「苺パフェ、食べたいから」 ミラーマンはそう言って、からりと笑った。 集中治療室に移されてから、もう2週間だ。 (きみは、どうしてこんなにどんどん小さくなっていくんだろう) 「苺パフェくらい、俺、買ってきてあげるよ」 「分かってねえなぁ。自分で食べに行きたいの。自分の足で」 ミラーマンは、ふいと自分の脚に目を移した。 自分の脚を見つめるミラーマンの目は、どこか寂しそうだった。 (ミラーマンは知っているんだ。もう一生、外に出られないって事)(それと、俺がものすごい罪悪感で死のうとしてる事も) それでもミラーマンは夢を見る。 自分の脚で、自分で外に出掛ける夢を。 ミラーマンと俺が、もし入れ替われるのならば、替わってやりたい。そう思っていた。 (なんで、なんで神様はこんなにもミラーマンに残酷なんだろうか)(そう言っても半分は俺のせいじゃないか) 「…も、タクシー泣かねえの」 ミラーマンは、俺の目から零れ落ちそうな涙を拭った。 うっすらと微笑さえ浮かべながら。 一番辛いのは、ミラーマンの筈なのに。 (なんできみは、こんなにも弱っているのに、こんな状態にしてしまった張本人が目の前にいるのに、こんなにも強いんだろうか) 「タクシー、俺な、タクシーがいるから、頑張れる」 「み、ら」 「…タクシーがいるからこそ、俺は生きようと、明日も生きようと思える」 「…」 「タクシー、愛してるよ」 俺はそっとミラーマンの手を握った。 ミラーマンの手は温かく、そして小さかった。 「…ミラー、生きろよ」 ミラーマンは何も言わなかった。 「…ミラー、俺、ミラーのことずっとずっと愛してるから」 「…うん」 「だから…だから俺と、結婚してください」 「……約束な」 ミラーマンはふわりと笑った。俺も、自然と頬が緩んだ。 ミラーマンは、俺の手を握り替えして、笑った。 「タクシー、手冷たい」 「…ふは」 「愛してるよ、ミラー」 俺はそっとミラーマンの左手の薬指に口付けた。 ミラーマンは、くすぐったそうに目を細めた。 「タクシー、俺、もうそろそろ時間みたいだ」 「…うん」 「…タクシー、俺、タクシーと、会えて、よか、た」 ミラーマンはぼろぼろと涙を零していた。 ミラーマンは、慌てて手の甲でその涙を拭い取った。 「ダメだな、俺。逝くときは、絶対泣かないって、決めて、たのに」 「…ミラー、…」 「タクシー、俺、タクシーが好き」 「…うん。俺も、ミラーが好きだよ」 「タクシー、愛してる」 「ミラー、俺も、ミラーを愛してるよ」 ミラーは満足そうに微笑むと、口角を下げ、ゆっくりと瞼を閉じた。 (向こうには、喫茶店ってやつ、あると良いね) そう思いながらミラーの手をさすると、ミラーの口角が、少し上がった気がした。 「ミラー、…愛してる」 俺はそっと、ミラーマンに口付けた。 きみの唇は苺パフェの味でした |