サラリーマン×フリーターパロ
幼馴染設定
夏の日。馬鹿みたいに蝉の鳴き声が響いていた日。
明け方に眠っては昼過ぎに起きるという日々を送る俺は半ニート。
職も無く探そうにもこのご時世雇ってくれる職場なんか無いに等しい。
別に収入がゼロという訳では無いが親からの仕送り、使うのはどこか気が引ける。
昼飯と言うべきか朝飯というべきか分からない食事を買いにコンビニへ行こうと
今まで寝てたベッドから立ち上がると安いスプリングが軋み部屋中に響く。
カーテンを開けてみると何時ものように日が照っていた。
それなのに何故か少し寒気がするのは部屋が影になっているからだろうか。
その辺に脱ぎ捨てたままの服を着てと小銭しか入っていない財布、携帯を手に取り
錆びて重くなったドアを開け出ていく。
「菅ちゃん」
一歩足を踏み出したところで見知った顔。
幼馴染で同じアパートに住んでいるこいつ。
ずっと昔から成績優秀で大学もいいとこを出ているおかげで今は大企業にお勤め。
嫌味な程似合っているスーツはきっとどこかのブランドものだろう。
この時間に帰ってきたという事は忘れ物か夜勤明けまたは仕事終わり。
宇治原の事だからおそらく後者のどちらかだとは思うが。
「菅ちゃん何処行くん?」
「コンビニ。宇治原は?」
「今日の仕事もう終わってん。」
そうなんや、と軽く返す。
いくら幼馴染だからと言って特別仲が良いわけでは無く、出会えばこうして他愛のない話くらいはする程度。
ただ、昔から近くでこいつを見ていたおかげで俺含む周りの奴らが皆馬鹿に見えて仕方がない。
成績も然り、人間性も然り。
御人好しで生真面目な性格のため誰からも頼られていて、こいつもこいつで頼まれごとは最後まで丁寧にこなす。
細身で身長も高いし、目は窪んでいるが決して不細工ではない容姿。
当然好意を寄せる人も少なくは無かった。
俺もその、「好意を寄せる人」の中に所属している事に気が付いたのは高校生の時だったか。忘れてしまった。
じゃあ、と切り出そうと宇治原の顔を見上げるとくらくら、とするのは
夏の暑さからなのかはたまた目の前の野郎がまぶしく見えたのか。
自分で思って居て、呆れてしまった。
「何か菅ちゃん、ふらふらしてへん?」
「どういうこと?」
「そのまんまの意味やけど」
「ろくに働きもせんとふらふらしてんちゃうぞ、って?」
ちゃう、と言われた気がした。
菅ちゃん!と大きな声で呼ばれた気がした。
近所迷惑な奴やなあと思った。
そこで、何かがぷつんと切れた。
目が覚めると、あれだけ喧しかった蝉の声がぱったりと消えて
その代わりに静かながら聞こえる雨音が部屋いっぱいに響いていた。
部屋は微かに明かりが灯っている程度できっともう夕方を過ぎているんだろう。
「あ、菅ちゃん起きた?」
ベッドに横たわっている俺。の横に座って何やら難しそうな題名の本を読んでいた宇治原。
しまった。何も思い出せない。
今思い出せることは、宇治原は大きい声で俺の名前を呼んだ非常識な奴だという事だ。
何ていうと多分口きいてくれなくなるから言わないが、実際何も覚えていないから仕方がない。
「風邪で、倒れたんやで」
「俺?」
「そう。んで、優しい宇治原さんが看病してやった」
そんな俺の思考を読んでか否か、此処にいたるまでの経緯を説明してくれた。
なるほど、それなら朝間(というか昼間)寒気がしたのも宇治原を見上げた時にくらくらっとしたのも合点がいく。
上半身を起こしてみても身体が幾分か軽いことから大分様態は収まってきたのだろう。
やはり成績優秀頭脳明晰な奴はこういうときも臨機応変に対応してくれるのか
俺はこいつが居なかったら今頃一人でああ頭痛が痛いだとか何だとか言っていただろう
いや、寧ろ自分が風邪だという事にすら気づかずに今まで通り過ごしたのだろうか。
どちらにせよ、昔からよく見知ったこいつが隣人で、ちょうどいいタイミングで帰宅していなかったら、と思うと目の奥が熱くなった。
病気をしてかなりナーバスになっているのだろう、そう思いたい。
「菅ちゃん?もう大丈夫なん?」
「ん、だいじょぶ」
「最近頑張ってたもんなあ、風邪ひくのも無理ないで」
「は」
何思って俺が頑張っていたというのだろうか。この目窪め、嫌味か。
という意味を込めてじっと宇治原を見ていたら、またも思考を読み取ったのか
ふふ、と笑った。ちょっと、くらっとした。
「求人雑誌よう持って帰ってるし、履歴書もたくさん書いてたやん」
「…なんのはなし」
「たまたま、見たんですう」
宇治原曰く、昼休みに立ち寄ったコンビニで俺が何冊かの求人雑誌と履歴書を入れた袋を下げて帰るのをみたとか、
求人先の番号に電話をかけている声が聞こえたとか。壁の薄いこのアパートではそういうこともあるのか。
とはいえ採用してくれた就職先などなく、働きはしていなかったのだが。
「おつかれ、菅ちゃん」
「…うっさい」
ぽんぽんと音がしそうな力加減で俺の頭をその大きな手で包む。
顔中が熱くなって、また熱が上がりそうな気がした。
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宇治さんが確信犯だとなお良い。