小説 | ナノ


※静雄は14歳九十九屋さんと臨也は20歳
※静雄は九十九屋さん家の使用人
※大正時代位のパラレル






生まれて初めて恋というものをした。

そう言ったら俺の主人の九十九屋は笑ったが、俺は至って本気だった。生まれて十数年の奴が何を言う。九十九屋は軽く頭を小突く。睨みつけると、怖い怖いと肩をすくめた。



「やあシズちゃん。こんにちわ。九十九屋いるかな?」

「…部屋に居る」

恋した相手はそれはそれは美しい男だった。名前を折原臨也と言う。主人の九十九屋とは同級生だと聞いていた。
臨也はいつものようにきっちり首まで釦をしめた黒いコートを靡かせ、なんともそれにそぐわない日本家屋の板張りの廊下を一直線に九十九屋の部屋へと歩いていった。
ふと主人の嫌みたらしい笑顔が浮かぶ。まるで俺などまだ子供だと言わんばかりの口調だった。臨也に相手にされていないことは自覚していたが、それを九十九屋に指摘されたことに腹が立つ。部屋に籠もってやろう。思い立つが、今日は家に他の使用人達はいない。客がきたなら茶をださなければならない。
俺はため息を吐くと、台所へ向かった。



#



九十九屋の自室は母屋から少し距離のある離れにある。
お盆に茶を乗せて、庭園を抜ける。庭の池の鯉は、臨也がよく九十九屋と眺めていた。錦鯉は確かに綺麗だ。俺が毎日世話をした錦鯉を嬉しそうに眺める臨也をみるたび、なんとも心が温かくなる。
突き出した縁側に足をかける。襖を開ける前に声をかけなくてはならない。

「――つくも、」

「…っ、あっ、つくも、や…!」

ぎくりと体が固まった。喉が震える。なんだ。なんだ、今の声は。

「ひぃ、…あっ、まって…っ」

「待たない。お前が誘うから悪いんだぞ、折原。」

その声は確かに先程俺に笑って挨拶をした想い人の声だ。普段の落ち着きはない。声は艶を増し、言葉は覚束ない。だがしかし、確かに臨也の声だった。

「それにお前だって溜まっていたんだろう?わざわざ家にまで来て」

主人の楽しむような声音が聞こえる。低いいつもの声ではなく、明らかに興奮し、少し上擦っている声だ。

「ちがっ…ちが、うっ!俺は、書類、届けにきた、だ、けっ…は、ぁっ」

甘ったるい声で否定をする臨也は、だけれど本心は逆だと語っていた。
そうか、そうだったのか。主人と想い人は、そういう関係だったのか。声を聞けばわかる。2人が何をしているのかも。2人がどんな関係なのかも。俺はそれが分からない位子供ではないのだ。そして、自分が焦がれる相手のとろけたような声を聞いて、無視できる程子供でもなかった。
臨也の嬌声を聞くたびに、下半身に熱が溜まっていくのがわかる。俺は縁側に乗り上げ、少しだけ開いている襖の隙間から中を覗き見る。
ちらりと見えたのは臨也が着ていた漆黒のコートと、それとは真逆の真っ白な体だった。

「ふ、うぁ…、つくもや、つくも、や、あ、ああっ、」

ひくりと小さく臨也の華奢な肩が揺れる。開かれた足の間に顔を埋めていた主人はゆっくりと起きあがると、臨也の髪を梳いた。
じりじり焼け付くような感情が押し寄せる。下半身に目をやると、ズボンがやんわりと盛り上がっているのがみえた。
俺は夢中でベルトを緩め、自分が外にいるのだということも忘れ、熱を持ったそこを扱く。

「あっ、や、だ、おれ、いったばっかだから、まっ、て、ぇ…!」

「だから、待たないと言っただろ。大丈夫だ、ちゃんと解すから。」

「あ、たりまえだ、ばかぁっ…んんっ、うぁっ」

臨也の肌は赤く色づき、柔らかに震えている。
己のそこが徐々に質量と熱を増していく。そこを包んで動かす手は止まらない。はあ、と熱い息を吐き出し、どうにか出てしまいそうな声を噛み締める。

「ん、は、ぁっ、…ふっ、ぜん、ぶ、…いれ、て!」

臨也の声が聞こえる。俺に向けられていないその強請る声でさえ興奮する。熱い。もうだめかもしれない。
もう一度、もう一度だけ。
そこを握りしめたまま、そっと中を覗く。
すると、涙をためた赤い瞳と視線が合った。臨也は細い体を揺さぶられながら、こっちを見ていた。驚いたように目が見開かれる。

「っ、あ、あああっ、しず、ちゃ、ひああっ、」

己の名前が、あの甘く妖しい声で呼ばれた瞬間、熱は最高潮に上り詰め、俺は果てた。
その場から逃げる。とにかく早く逃げ出した。茶はそこに放置したままだった。



思えばあれが俺の思春期の終わりであったと、19歳になり気付いた。
九十九屋と臨也の関係は続いている。
あの日のことは、俺も臨也も互いに触れようとはしなかった。




0721の日であったとさ。
title/ZINC


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -