ろぐ | ナノ
『先輩たちー!今日はどこ行くんですかっ』



ニコニコ笑ってやって来たのは、野球部不良集団の1年後輩の女、桃乃だ。
授業が終わればいつも野球部の部室に顔を出し、ある男の隣にちょこんと座る。



「コンビニだとよ」



ドレッドヘアをいじりながら岡田がそう言ってやると、彼女は愛らしい笑顔で『それじゃあ私も!』と言った。



『いいですか?あにや先輩!』

「あ?知るかよ、なんで俺に聞くんだよ」



さっきのある男というのは安仁屋のことで、桃乃は安仁屋に心底惚れている。それは言動を見れば誰が見てもわかるほとで。(あの平塚がわかったくらい)



『じゃあ他の人にも聞きます!先輩がた、私も行っていいですかー?』

「桃乃なら大歓迎だにゃー」

「つーかいつものことだろ」

「今さら聞かれてもなぁ」



湯舟、若菜、関川の意見にきっと反対するやつはいないだろう。安仁屋安仁屋とうるさい後輩だが、なんだかんだ皆彼女が可愛いのだ。



『って、ことなんで、私も行かせていただきまーす!』

「ちっ…勝手にしろ」



安仁屋の隣に並び、一生懸命速いペースに合わせる桃乃。そんな彼女を見て安仁屋はめんどくさいと思いつつも少しペースを落とした。


…そして後ろにいる安仁屋を除く野球部は、「付き合えばいいのに」と思うのである。



「っておい、桃乃!お前チャリあんのかよ」

『え?ありませんよぉ。だってみんなも歩きでしょう?』

「バーカ」



そう言って、全員が各々の自転車に手をかける。



『え……ええええ!ズルい!なに自分たちだけ私に内緒でチャリで来てるんですか!』



別に言う義務はないだろと新庄の冷静なツッコみが聞こえた気がしたが、桃乃はスルー。



『私だけコンビニ行けない…!仲間はずれ…!』

「しょーがない、桃乃!特別にお前を俺様の後ろに…」

「桃乃、俺の後ろに乗ればいいにゃー!」

「は?桃乃が乗るのは俺の後ろだろーがよぉ!」

「黙っとけクソリーゼント!」

「んだと桧山コラァ!」

「…おい桃乃」

『はい?』

「しゃーねーから乗っけてやるよ。特別だぞ」

『あ…あにや先輩…!』



他の連中がなんと言おうと、やっぱり桃乃の耳には安仁屋の言葉しか聞こえないのだろうか。
そんなふうに思いながら、嬉しそうに安仁屋の自転車の荷台に乗る桃乃を見たのは何も「俺の後ろに…」と挙手した者だけではない。



『あにや先輩ー』



坂をくだる時、桃乃が後ろから声を張り上げて安仁屋に喋りかける。その大きな背中を見ることを休めずに。



「なんだよ」

『大好きぃー』

「……」

『無視されても好きですよー』

「……」

『八木先輩のこと好きでも好きですよー』

「……。あっ!?」



キキッ



『ぶふっ!い…いきなり止まらないでくださいよ!』

「てめーがわけわかんねーこと言うからだろーが!」

『好きって言ったことですかあっ!?ひどいです…!今までの好きも全部わけわかんねーなんて思ってたんですか!桃乃ショック!』

「なにが桃乃ショックだ!ちっげーよタコ!」

『なんですか、なにが違うんですか!』

「俺が好きなのはなあ!」

『だから八木先輩でしょー!?』

「ばっ、ちげーっつってんだろ!何回言わせんだ!」

『じゃあ誰なんですか!言っとくけど私あにや先輩に好きな人がいても諦めませんからね!』

「俺の好きなヤツは、」

『彼女がいても諦めませんからねえーっ!』

「黙らねーとブッ殺すぞォ!」

『あにや先輩こわっ!』

「俺が好きなのはお前だって何回言わせんだよ!」

『なっ…何回も言ってませんよー!?』

「っるせえ!心の中では何回も言ってたんだよ!」

『!!』

「!!なっ…何言わせんだてめえ!」

『私のせいですか!?ってゆーか私あにや先輩の彼女って言ってもいいんですか!?』

「知るかよ!勝手にしろバーカ!」



怒鳴り合って告白しちゃって
(…あいつら放置してきたけど…今頃ひっついてんのかな…)(それは言うなよ岡田…)(わ、わりい)
- ナノ -