ろぐ | ナノ
「雨、だ」



教室の窓から手を出して、ポタリポタリと音をならしそれを濡らす滴を眺める。
隣に座る彼の方を見ると、言われなくてもわかるとでも言いたげな瞳でこっちを見ていた。


まぁ、確かに。言われなくてもわかるような大雨だ。



「なあ桃乃」
「ん?」
「もう帰ろーぜ」
「もう少し」
「傘でも忘れたのか?なら俺が入れてやるからよ」
「んー、傘ある。ただあとちょっとここにいたいの」
「…空なんか眺めて何が楽しいんだよ」



窓枠に頬杖をつき、ぶすっと拗ねたように下唇を尖らせる彼、黒羽快斗。放課後誰もいなくなった教室には私と彼しか残っていなかった。普段ならSHRが終わって10分もしたらここを出るんだが、今日は少し違った。



「シカト?」
「あ、うん、楽しいわけじゃないけどさ。今日はほら」
「?」
「わからないの?7月7日」
「ん?……あぁ、七夕」



驚いた。本当に忘れてたんだな、快斗。確かに男の子にはあまり興味のわかない日なのかもしれない。ただ、私は。



「すごく好き」
「えっ」
「?すごく好きよ、七夕」
「あ、ああ…(七夕の話かよ…って流れ的にそりゃそーか)」
「ロマンチックだよね?」
「彦星と織姫だっけ」
「そう。1年に一度だけ会えるの」
「じゃあ今日はそいつらイチャイチャしてるってことかよ」
「ううん。今日はムリよ」
「なんで」
「雨だから」
「は?」
「雨だと天の川は渡れないの」
「へー」



興味の無さそうな声だけど、一応聞いてるようなので話を続ける。



「昨日までは晴れだったのに。ここ何年も七夕の日は雨よ」
「あらら」
「神様は意地悪ね。年に一度しか会えない恋人を会わせないなんて」
「んー…逆に考えてみたらどうだ?」
「え?」
「例えばその神様は未来も見える奴で、もし今日2人が会ってたら喧嘩して別れるって未来を知ってて雨を降らせたのかもしれねーだろ」
「…何年も会わせないのは?」
「去年会ってたら織姫が彦星から離れたくなくなって離れさせた父親に対してめーっちゃワガママになったり、とかな」
「…すごい発想。そんなの思い付きもしなかった」



不思議なことを考えるものだ。七夕の雨に関しちゃ私はてっきり神様が悪いとばかり…なるほどそういう考え方もあるのか。



「ってゆーか快斗、織姫のお父さんが離れさせたって知ってたの?(それなら雨の日会えないことも知ってたんじゃ…)」
「まあちょっとくらいはな」
「へー。じゃあ催涙雨のことも?」
「んや、あんま知らねえ」
「催涙雨って七夕の日に降る雨のことなんだけどね、織姫と彦星の涙なんだって」



会えなくてたくさん泣いてるらしい。それだけ好きなんだって思うと、また私は七夕という日を好きになる。大好きな人に会えないなんて、耐えられないのだろう。私だって耐えられない。



「土日会わないだけでもつらいのに」
「は?」
「快斗は、もしも私との間に天の川を作られたらどうする?」
「飛び越えりゃいーんだろ!」
「絶対に来てね」
「おう!」



(来年は、きっと晴れますように)
(そしてどうか2人が空の上で笑っていますように)

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20110707//急いで書きましたがアップは1日遅れ…。そしてこの小説何が書きたいのかわからんスンマセン
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