ろぐ | ナノ
ピンポーン



「(どうしようどうしようどうしよう)」



で、出なきゃまずいよね?そりゃそーだ!だって(紅子ちゃんにやらされたとはいえ)私が呼んだんだもん!とりあえず……そう、とりあえず、快斗を中に入れよう!



「はぁーい……」



ガチャ、



「おい桃乃、オメーいきなり何の…よ……う……」



快斗の目がみるみる丸くなっていくのがわかった。なるべく扉で体を隠しても化粧や髪がバレてるんだろう。
入ってと託すと彼は何も言わず家に入った。
リビングまで歩く私の後ろをついてくる快斗。



「え、と……その…、」



な、なんか言って!快斗なんか言って!黙られると困るよ、私!
そうか、この立ち位置がおかしいのよ!なんで私たち向かい合ってるの!



「と、とりあえず……お茶でも入れる、ね?」
「お、おー」



紅茶しかないや…まあ快斗よく飲むしいっか。


……快斗超こっち見てるんですけど!


コポコポ…とお湯をそそぐ音しかしないこの空間だとなおさら緊張する。だって私…この格好…!(こんなに丈短いワンピース、初めてだし肩も腕も胸元も開きすぎ!)



「…どーぞ」



ことり。


どうしたらいいのかわからないので、とりあえずソファーに座る快斗の隣に私も座った。



「……」
「……」
「……」
「……」
「…えと、快斗?」
「…なんだよ」
「…何にもない」
「…そーか」
「うん…」
「……」
「……」
「…な、なんでいきなり呼んだんだよ?」
「あ…それは……」
「?」
「……」



呼んだ、のは…紅子ちゃんが呼べって言ったから……でも、そう言ったのはきっと…


視線を壁にかけられた時計に移すと、時刻は午後11時58分。



「あと、2分待って」



そう、2分。2分後にはちゃんと言えるから。


ちくたく、ちくたく、ちくたく。確かに時が流れるのをしっかりと感じ、ついにすべての針がてっぺんを指した。



「お誕生日おめでとう、快斗」
「…誕生日?」
「生まれてきてくれてありがとう」
「……桃乃、」
「…一番に言いたかったから呼んだの。こんな時間に、本当にごめんなさい」
「……」
「で、プレゼントなんだけど…」



プレゼントは私…だっけ?語尾にハートをつけられるかが不安だ。でも、紅子ちゃん言ってた。ぜったい快斗は喜んでくれるって。



「プレゼントは私(はーと)」
「……………」
「……快斗?」
「……………」
「お、おーい、快斗くーん」
「……………」
「……。なんか言ってよ、バ快斗!」
「それは、つまりアレか?」



いつもなら「なんだとアホ桃乃!」なんて言い返してくるのに、残念ながらそれは聞こえない。
それどころか快斗は真剣な顔して口を開いた。



「誕生日に自分の身体をプレゼントしちゃう的なアレか?」
「……?……!!そ、そーゆー意味だったのか!」
「あ?オメーの考えじゃねーのかよ」
「うん、紅子ちゃんが…。この服とか頭も全部やってくれたの」
「(ナイス紅子!)」



こ、この作戦にそんな恥ずかしい意味があったなんて…!



「!ちょ、か、快斗、な…なにこの体勢?」
「…決まってんだろ?」
「ま、待って、快斗そろそろ家に帰らなくちゃ…!」
「今日は泊まる」
「ああああしたの学校は?制服いちいち取りに行くの?」
「休もうぜ」
「っ…!」



ソファーに押し倒されたこの状況で、形勢逆転は不可能だと理解している。だけどそれでも、私の羞恥心が今にも服の中へ入ってきそうな快斗の腕を止めた。


そんな私に対して快斗は不満そうに唇を尖らしていたが、やがてその唇を私の耳元に落とし、ほんの少し低く囁いた。



「据え膳食わぬは男の恥、だろ?」



……私が快斗の声に弱いところを利用した、見事なファインプレーだ。



(あーあー…私今まで皆勤だったのに…)(気にすんなよ)(…うーん(快斗の嬉しそうな顔見たら許しちゃうんだよなぁ…))
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