ろぐ | ナノ
オレの好きな女は、少し変わってる。
見た目は普通にかわいいし、成績もごく普通で、特に変わったようにも見えない。


が、異常なくらいの……



「キャー!キッドさまかっこいー!!」

「……」



怪盗キッド好き。
普段は大声出すようなタイプでもないが、キッドについて語らせればそれはもうよく舌の回ること。
何度彼女にキッドの魅力とやらを長々と語られたことか…。



「ほんっとキッドさまかっこいい!素敵!ねえ快斗くん、快斗くんもそう思わない?」

「あー……まぁオレも好きだけどな、マジックすげーし(つーか本人だっつーの)」



そりゃあ最初聞いたときは嬉しかったさ。なんてったって、好きな女に(一応)自分をさんざんほめられんだからな。
…だが聞けば聞くほど、コイツは"オレ"じゃなく"怪盗キッド"を好きなんだと思い知らされる。



そんなことを思ってるなんて知らず、隣の席の桃乃はにこにこしながら携帯でテレビを見ていた。



「ずいぶんご機嫌だな。何のテレビ見てんだ?」

「んー?昨日の録画よ」

「昨日?」

「快斗くん撮ってないの!?あちゃー、そりゃダメだよ!もったいない!」

「(この反応…)…まさかオメー、昨日の怪盗キッドの生中継か?」

「もち!サイッコーだよほんと!キッドさまがね、素敵すぎてもうわたしの心はヤバいんです」

「…んなにいいもんかね、"キッドさま"ってのは」

「当たり前じゃん!間違いなくわたしの中の1番の人だよ」

「紳士に振る舞ってるかもしれねーが、実際すんげー悪い奴かもしれねーんだぜ?事実、奴はキザな悪党だ」

「悪い人ならふつー宝石返したりしないよ!それにキッドさま絶対殺人とかしないし。キザな悪党万歳!」

「……」

「神出鬼没で大胆不敵、月下の奇術師、平成のルパン。一度でいいからキッドさまのあのモノクルの奥の瞳に映ってみたいものね」

「(もう映ってるよ。映りまくりだよ)」

「…まっ、そんなことになったらほんとーにわたしの心臓がやばくて気失っちゃうかもしれないけどね!」

「(今めちゃめちゃ映ってんだから早く気失えよ!)」



なんでオレだといたって正常なんだ!?



「…なあ桃乃、もしキッドの正体が……」

「なに?」

「…正体がよ………」

「?」

「…デブの汗かきオヤジだったらどーする?」

「……」

「…(ごくっ)」

「…や、ないでしょ。それは」

「な、なんで!わかんねーだろ!」

「だってキッドさまのシルエットからしてデブは絶対ないし、ましてやあんな膨張色の服に身包んでながらスラッとしてんだから、ありえないよ」

「でも奴は変装が得意なんだろ?」

「ありえないから!!絶対アレが素の外見!スッと細身のイケメンなの!」

「…へーへーそーですか」

「もうっ。快斗くんもマジック得意なんだから、少しはキッドさまを見習えばいいのに」

「(だからキッドはオレだっつの!)…何しろってんだよ。バラ出しながらキザなセリフでも吐けってか?」

「いいね!キッドさまがやりそう!ねーねー、やってみて?」

「バーロー、オレがやったってどーせオメーは…」

「いいから!はーやーくっ!」



こんなわくわくした顔で言われたら断れるわけないだろ。
しゃーねー、ここはいっちょやるか。あんまりキッドっぽくやんのもな……でもどーせなら桃乃をときめかせ、たい。



ポンッ



「わ、」

「…愛しい貴方にはこの美しい真っ赤なバラがよくお似合いです」

「!」

「嗚呼、なんて可愛らしい女性なんでしょう。このまま夜の空へと連れ去りたい」

「か……快斗くん?」

「ですがレディをさらうなんて私には到底できません。…では、またいつか。月下の淡い光のどこかでお会いしましょう」



───ちゅ、



「〜〜〜!!」



思い付く限りのキッドのセリフを口にして、最後に彼女の白い手の甲へとキスを落とす。
暫しの沈黙が流れてから、何も言わない桃乃を不審に思いちらりと視線だけ持ち上げた。


そしてそれを見たオレは、目を丸くしたのだ。



「え……桃乃、オメー顔が…」

「えっ、ななななに!?なんかついてた!?」

「いや…ちがくて、なんつーか真っ赤…」

「気のせいだからっそれ!」



別に赤くなんかないし…なんて言ってる桃乃の顔は先ほどにも増して熱を帯びていた。
そ、そんな顔で言われたらオレまで恥ずかしくなってくるっつーの…!



「(かーっ)……こ、こっち見ないで、快斗くん…」

「(かーっ)……おー」



(わーってるよ!)
(桃乃がオレじゃなくてキッドにときめいたってことくらい!)

(それでもやっぱり嬉しい男心)
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