ろぐ | ナノ
突然だけどあたしは泣くことが嫌いだ。じゃあ好きな人はいるのかと聞かれたら返答に困るが、とにかくあたしは泣くことが嫌いだった。なんてったってあたしの嫌いなものベストワンなんだから。特に人前で泣くのがイヤ。「かまってください」って言ってるようなもんじゃん。目だって腫れるし、頭も痛くなるし。だけどいくら嫌いったってあたしも人間だから涙を流すくらい悲しい時だってある。例えばそれなりに痛い怪我をした時とか、目一杯怒られた時とか、うまくいかない恋愛ドラマを見た時とか……こうやって考えたら意外と多いなって発見した時もちょっとヤな気分。でもさっきも言った通りあたしは人間であって決してロボットじゃない。嫌いだけど、ほんとにほんとに嫌いだけど……泣きたくなる時もあるんです。


『悪い。……俺もうお前と付き合えねぇ』


じゃあ付き合ってる彼氏にフラれた時は?そんな時は泣いてもいいんでしょうか?


「なんにも言わなかったの」
「うん」
「どうしてって聞いても、なんにも言わなかった」
「うん」
「あたしはずっと目を見て話してたのに、シズくんはずっと下向いてた」


シズくんが出ていった後澄んだ声があたしの名を呼んだ。空から喋りかけられたような声だと誰だかが言っていたけど今初めて納得できたかもしれない。声の方に視線を持っていけば予想通りのアイツがいて。正直名前と悪い噂くらいしか知らないようなやつだった。同じクラスだけど必要最低限の会話以外喋ったことないし、とても仲良しなんて言える関係じゃあなかった。それなのにあたしのことをその腕で抱きしめ、きっとどうでもいいであろうあたしの話に相槌を打ってくれているのは何故だろう。


「好きじゃなくなったのって聞いたら小さく『ん』って言ってた」
「そう」
「そんなこと言われて別れないでなんて言えるほどあたし可愛くないし」
「うん」
「だから笑って謝ることしかできなかった」
「うん」
「何を間違えたんだろう。あたしなにかシズくんの嫌がることしたのかな、なにがダメだったのかな」
「君は何も間違えていなかったよ」
「え」
「どんなときもシズちゃんに尽くしていたし、見ていて反吐が出るほど好き合っていた」


じゃあなんで、床に問い掛けると彼、折原臨也はあたしの頭を撫でながら「ただシズちゃんが臆病だっただけの話だよ」そんなふうに言った。シズくんが臆病?そんなの知ってる。あんたよりあたしのほうが知ってる。なのにあたしはシズくんに捨てられましたよ。


「シズくん」
「いないよ」
「シズくん」
「君はフラれたんだ」
「シズくん」
「もうアイツに頼ることはない」
「シズく、ん」
「…だから泣きな」
「いやだ」
「泣いていいよ」
「絶対にいや」
「泣けってば」
「いやったらいや」


なんで友達とも言えないようなやつの前で涙を流さないといけないの。ただでさえ泣くのはきらいなのに

深い友人じゃないからこそ泣けるんだと思うよ、君みたいな強がりな女の子はね

好きなのに

わかってるよ

ほんとにほんとに 好きなのに

わかってる


「…折原臨也くん」
「なに?」
「どうしてあなたはそんなに優しくしてくれるの」
「さあ」
「……」
「君は特別じゃないかな」
「は」
「だから君も俺を特別だと思って泣きなよ」


ほんの少し悲しそうに笑う折原臨也を見てあたしはどうしてかわからないけど涙を流してしまった。


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瞳から宝石//111226
見ていて反吐が出るほど好き合っていたってフレーズがわたしてきにお気に入り
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