ろぐ | ナノ


オリハライザヤって、知ってる?そんなふうに聞かれた私はキャラメルを口の中で転がしながら首を横に振った。すると机を挟んで向こうにいる彼女は目をまんまるくさせる。知ってる、って疑問形に聞いておいて知らないと答えたら驚くなんておかしな話じゃないだろうか。まあいいんだけどさ。「オリハライザヤ知らないなんてあんた終わってる!JKとしてありえないから!」…オリハライザヤを知らないことはそこまでダメなことなのか。というよりまるでJKがみんなオリハライザヤを知ってるみたいな言い方はやめてほしい。コロン、キャラメルが舌の上を転がる。


「で、オリハライザヤってのは芸能人なの?」

「いや、他クラスの男子」

「…え、まさかの一般人。変わった名前だね」

「まじで知らないんだ」


今度は頷く。知らないものは知らない。噂に疎いことはちゃんと自覚している、がそれを不便に思ったことはないから改善もしてない。あいにく他人の情報に関心していられるほど余裕のある人間じゃないんだ、私は。いつも自分のことで精一杯。


「オリハライザヤってのはさ、それはもうイケメンって話!顔良し頭良し運動神経良し性格良しのパーフェクト男」

「……う、うさんくせぇ〜」

「でもほんとかっこいいの、昨日ちらっと見たんだけどさーアレはモテるね」

「ふーん。私ははなわくんの方がかっこいいと思うけどね」

「……、真面目な話かっこいいんだって。わかる人にはわかるよ、はなわくんのかっこよさが。みぎわさんが惚れるのも激しく納得」

「…とにかく1回見てみてよ!たぶんあんたも好きな顔してる」

「はなわ系?」

「それはない」


なら私は興味ないや。


♂♀


「あ」


思わずポロリと漏れた言葉を隠すように私は口元を手で覆った。けれども時すでに遅し、こぼしてしまったものを戻せるはずもなく目の前のマゼンダが私を捕えた。


「何?」

「いや……」


名前を聞かずともわかってしまった。たぶん、いや絶対にこの人がオリハライザヤだ。真っ黒な髪とマゼンダの瞳。独特の雰囲気を放つオリハライザヤ、そして彼の声は外見と似つかわしくそれは爽やかな声だった。確かに友人があれだけ言っていた意味もわかる。だけど、


「好みじゃないなあ」

「…目が合って好みじゃないって、ずいぶん失礼な話だね」

「あっ、ごめん!えーとそうじゃなくて…」


いやそうなんだけど、今のは私の失態だ。彼の言うとおり失礼すぎる。なんとかそれっぽい言い訳をしようと考えていたらふいにオリハライザヤと目が合った。そしてゾクリとする。まるで君の考えてることはわかってるよ、言い訳を探しているんだろ、そんなふうに言いたげな瞳。怖くなってすぐにそらした。


「……ごめんなさい、さっきのは忘れて…」

「俺が好みじゃないとか言うあれ?」

「うっ……は、はい。以後声に出さないよう気をつけます…」

「…おどおどしながら結構いいこと言うね君」

「それではさようならっ」


ペコリと頭を下げオリハライザヤの横を通りすぎる。かっこいいことは認めよう確かにあれは端正な顔立ちでしょうね、だけど苦手だ。顔も声も雰囲気も。私のダメなタイプ、これから関わることはないななんて思った。


「待ちなよ」

「ひいっ」


ぐわしっ。なんてどこかで聞いたことがあるようなないような音を立て例の彼が私の腕を掴んだ。引き止められるいわれはないのですが…


「君、名前は?」

「………ジョセフィーヌですみんなにはジョセフと呼ばれてます、以後お見知りおきを」

「…ふーん、伊藤桃乃ね」

「!!」

「下」


急いで下を見る。…皆さんもうお分かりだろうか、女子高生というものを経験した人ならばわかるかもしれない。校内にいるときはたいていの生徒が履いているものがある。それは学校によって上履きであったりスリッパであったりとバラバラだ。ちなみに来神は前者である。そして上履きに名前を書くとき、『どんなものでも可愛くしたい』という発想から女の子特有のまるっこい文字で自らのそれを書く。名字を並べる者がいればあだ名を並べる者もいる。私はと言えば左足に名字、右足には名前。とどのつまり「こんにちは伊藤桃乃です」と言ってるみたいなものだ。


「……、伊藤桃乃ですみんなにはジョセフと呼ばれてます。以後お見知りおきはいらないので今度こそさようなら!」

「待って」

「まだなにか!?」

「俺のこと知ってる?」

「オリハライザヤ!」

「そうそう。他に知ってることは?」

「それはもうイケメン!」

「で?」

「顔良し頭良し運動神経良し性格良しのパーフェクト男!」

「まだある?」

「でも胡散臭いやつ!」

「いい度胸じゃないか」


そう言ってオリハライザヤはにたあと笑った。いや、笑ったというより…嘲笑ったと言った方がいいのかもしれない。人間ここまで悪い顔をできるのかと思うほどだ。


「最近退屈してたんだ。いいモノを見つけちゃった、俺ってついてるなぁ」

「は?」

「伊藤桃乃さん、ね。俺はオリハライザヤ、以後お見知りおきを」


いや、お見知りおきはしないってば。


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111203//うわさの×××
わたしの学校はスリッパです。どうでもいいけど左足も右足も名前書いてます、けど友達と交換してるうちに誰がわたしのスリッパを履いてるかわかりません。そーゆーことありませんか。

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