ろぐ | ナノ
どうして人間という生き物は、「するな」と言われたらしたくなるんだろう。
(もちろんお巡りさんにお世話になっちゃったりするようなことはしないが)



触るなと言われたら、触りたい。


見るなと言われたら、見たい。


押すなと言われたら、押したい。



関わるなと言われたら、関わりたい。



『おい桃乃、本当に行くのか?こっちとしてはありがたいが……アイツには関わらない方がいい』

『行きますよ、行くに決まってるでしょ!この私が見事に取材してきます!』

『はぁ…』



「──とは言ったものの、新宿はあんまり行かないからなぁ…取り立て屋さんは池袋だったからなんとか行けたけど、今日中にたどり着けるのかしら」



天気は晴れ、そしてあの時と同様の猛暑。やっぱりアバウトな上司からの地図を見て、先日と同じ苛立ちを覚えた。どうしてこうも適当な地図を可愛い部下に渡せるのか。本当に迷子になったらどうするんだ(今でもすでにかるく迷子)。新宿や池袋は明るいところは明るいが、日の当たらないところは大変危ないところなのだ。


だがそうは言っても立ち止まることもできず、カッターシャツに汗を滲ませながら私は足を動かし続けた。



♂♀



「っと、ここ…かな?」



アレから小一時間ほど歩き回って、ようやく見つけたそれらしきマンション。
見るからに高級そうなとこだ。新宿にこんな大きなマンション、しかも最上階に住んでるなんてどんな人なんだろう。
有名な『情報屋』と言うからにはそれなりに年のいった威厳のある人だと私は勝手に思っている。



……が、5分後、私の想像とは全く異なる、正反対の人物が迎えてくれることとなる。



「えーと…、はじめまして、伊藤桃乃です」

「どうも、はじめまして」

「情報屋の折原臨也さんで間違いありませんか…?」

「はい」



今、目の前で長い脚を組む男は、どう見ても二十代の青年だ。綺麗な黒髪と、紅い瞳。爽やかな外見に相応な声。眉目秀麗と言うにふさわしい人だと思った。



「この度は取材をお受けしていただきありがとうございます」

「いえ、かまいませんよ」



にこりと微笑む折原さんの笑顔は悩殺ものだった。なんてゆーか、整いすぎだこの顔は!あかん、最近仕事に身を入れすぎてたからこのイケメンへの免疫が薄れていた…!



「(落ち着け私!今は取材中だぞ!)」

「どうかしましたか?」

「すいません、何でもありません。…折原さんはとても有名な情報屋さんらしいですが、そのことについてどう思いますか?」

「まあ、有名と言われるのは有難い話ですね。仕事は増えるし、人間との関わりもより広くなりますし」

「人間との関わり…?」

「好きなんですよ、人間が」

「人間が?折原さんも人間ですよ」

「俺を見たって面白くない。他人を見るのが好きなんです」

「へえ…独特の考えを持ってるんですね、とっても興味深いです!」



人間が好き、か。折原さんみたいな人はきっと好きなものをどこまでも追及するタイプだろう。興味のあるもののためならなんだって、みたいなね。


好奇心旺盛な私とはある意味似てるかもしれない、そんな考えを片隅にいくつか折原さんに質問し、出されたティーカップに手をかけた。



「ところで折原さん、ここからはプライベートな質問なんですが、よろしいですか?」

「いいですよ。でもそれってノーコメントあり?」

「答えたくないものにはもちろんかまいません。…えーと、折原さんはどのくらいの頻度で自殺オフへ参加を?」

「ノーコメント」

「失礼しました。それじゃあ、平和島さんとのご関係を」

「犬と猿ってやつじゃないですか?あ、シズちゃんが猿ね」

「なるほど…。2人がばったり遭遇するとそれはもう止まない喧嘩が始まるとのことです。平和島さんは池袋最強と恐れられていますが、そんな猛者相手に折原さんはいつもどんな応戦を?」

「俺はだいたいこのナイフで相手してるよ。あの化け物みたいにガードレールや自販機を武器になんて非人間技できないからねぇ」



愉快そうに、それでも紅い瞳には憎悪を忘れず折原さんは言う。
そんな彼の様子からでも2人の仲の悪さがわかる。
楽しそうにナイフを指先でもてあそんでいるけど、いったいそのナイフはどれほどの平和島さんの血を吸っているのだろうか。…そう考えると少し怖い。



「シズちゃんにはこんな質問しなかったの?」

「あ、はい。平和島さんは折原さんの名前を聞くとキレると上司に聞きましたので…本当は聞きたかったんですがね、池袋最強から見る新宿の情報屋。まあその反対もまた然りですからよしとします」

「賢明な判断だよ。シズちゃんにあんな質問したら何が飛んでくるかわからないもん」



もんって言った…
二十歳過ぎの男がもんって…



「(いや似合うけど)」

「ところで、桃乃さん」

「はい、なんでしょうか」

「ここに来るまでの間にカラーギャングに2回絡まれたけど、よく平気だったね」

「え、なんで、」

「お年寄りに道を聞かれたのが三回……多いね、でも新宿はあんまり来ないらしいし対応に困ったんじゃない?」

「……」

「そういえば妹がいるんだってね。来良学園…紀田くんと仲がいいとは、驚きだ」

「……」



やばい。
この情報屋、めちゃめちゃ調べてる。まさか妹の交友関係まで…



「…えーと、今日はご協力ありがとうございました!それじゃあ私はこの辺で失礼します」



逃げるように鞄をつかみお辞儀をして、玄関へ向かう。が、彼はそのまま逃がしはせず。綺麗な声が後ろから聞こえた。



「ねえ」



警戒音、警戒音。



「九十九屋は、元気かい?」

「それじゃ、失礼しました!」



折原臨也こわーい!



情報屋
(いくら好奇心旺盛な私でもこれ以上折原臨也に関わるのはパス!)

∵情報屋はやばい//110903
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