ろぐ | ナノ
もうすぐ今年も終わる。


ふと柄にもなくわたしの1年を振り返ってみれば、臨也さんで始まり臨也さんで終わる1年だった気がする。彼の仕事を手伝うのがわたしの仕事、だけど秘書とは名ばかりの役職で実際は一緒に過ごすだけの日々だった(時々お仕事したけどね)。そんなだらだらとした生活を続けながらもお金には困らなかったもんだからなんだか申し訳ない。だけどわたしが就職しようとすれば何かと臨也さんが阻止して結局何もできない。わたしもいい年だ。いつ臨也さんに捨てられるかわからない身だしお金はあるに越したことはない。



『と、思うんですよわたしは』
「へぇ」
『ちょっとマインスイーパやめてください』
「うわ、ちょ、」
『わたし真剣です』
「…別に君が心配してるようなことは無いと思うけど」
『気まぐれな臨也さんのことです。わかりません』



実際臨也さんに見捨てられたことはないけど、だけどやっぱり不安になることが多い。それは日を重ねるごとに増していくもので、最近のわたしと言ったら彼に捨てられないかビクビク……ってこともないけどやっぱり時々不安になる。



「ねぇ桃乃」



言いながら臨也さんはパソコンから離れわたしの隣に腰かける。片足だけ内側に折り畳みソファーに乗せ、体をわたしに向ける臨也さんは返答を待たずさらに言葉を紡ぐ。



「俺がさ。なんで桃乃にこんなにも不自由のない生活を送らせてるかわかる?」
『…不自由無くはないような気もしますが。えーと、……うーん…?』
「わからないのかい?」
『…はい』
「なら教えてあげようか」



ぐ、臨也さんが顔を近付けた。あんまり近付けてくるもんだからわたしは顔を離すわけだけど、それでも尚近付けてくるせいで体のバランスを崩してソファーに背中から倒れ込んでしまった。起き上がる前に臨也さんは無遠慮にもわたしの体に覆い被さる。ち、近い…!



「君が大事だからだ」



わたしの前髪を軽く上げて額に優しくキスを落とすその綺麗な仕草に思わず見とれてしまった。だけどすぐにボッ!と顔が熱くなった。なんつー恥ずかしいことを…!



『い、いざやさん…!?』
「もうちょっと理解して欲しいなぁ」
『だ、だって、』
「わかってる?桃乃は俺に大事にされてるんだ」
『大事に…』



されてる…?いやいやいや、大事にってそんな……え?え?や、やばい、顔が熱い、ってかなんか色々熱い!どうしたの臨也さん!わたしが恥ずかしがるとこ見て楽しんでるの!?だとしたら本当わたしこーゆーの苦手だから…や、やめていただきたい!

だけど、だけど臨也さんの顔は冗談言ってる時の顔じゃなくて。だからこそもっともっと熱くなって。右手で顔を隠せば臨也さんはその手首を握りしめ退かせた。その時に見えた臨也さんの表情と言えば、それはあやしくてもどこか柔らかい笑顔で。



「ほら桃乃、年が明けた」
『…え、』
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
『よ、よろしく、おねがいします、』



臨也さんがわたしの首に噛みついたのは真っ赤な顔のままそう言い終えた時とほぼ同時だった。


今年も大変な年になりそうだ。



(それは君が誰より大切だから)
────────────
2011.01.01
新年初。明けましておめでとうございます。
- ナノ -