昔からそうだった。 『いざや、莉子こっちで寝るから、いざやはこっちね』 幼稚園のときも。 『いざやあ、今日はいっしょに寝よう!』 小学生のときも。 『ねえ臨也、私の部屋のクーラー壊れちゃったから一緒に寝よ』 中学生のときも。 『臨也……さっき怖いテレビ見たじゃん?まだ怖いから…えっと、いっしょに、寝て!』 高校生になってからだっていくらかあった気がする。 自分の枕を腕で抱え、ぎゅっと抱きしめて俺の部屋に来る。年を重ねるにつれ可愛らしさは無くなった気もするが、やっぱり莉子はいつまでたっても莉子のままだ。 『一緒に寝よう』 まさかこの年になって16歳の女子高生と同じベッドで寝るなんてねぇ。相手が双子の妹といえどもやはり多少胸につっかかるものはある。もちろんそれはやましいものでもなんでもないが、いくらなんでも少し気が引けた。 時刻は午前2時。そろそろ眠くなってきたのでリビングの電気を消し寝室に向かう。あくびをしながら扉を開けたら白いベッドに丸まっている片割れが目に入った。ふーん、なんか子供みたい。子供だけど。 てか普通真ん中で寝る?俺に一緒に寝ようとか言っておいて占領してるし。「莉子、」白いシーツの上から肩に触れ揺する。わずかにくぐもった声を漏らすだけで、起きる気配はなかった。 「…16歳かぁ」 なかなか俺も眠たかったが、ここでぽつりと独り言をこぼす。16歳。つぶやいた言葉を頭の中でリピートしてみた。莉子はいま16歳の莉子だ。23歳の莉子と入れ替わった。こんなことがあるのか?もちろんそうは思う。でもこんな奇妙な世界じゃ、正直そこまで訝しむ話でもない。(首のない妖精や、自販機を持ち上げる人間がいるような世界さ) 23歳の莉子も、16歳の莉子も変わらない。それが今日1日で思ったこと。23歳の莉子が初めて波江と会話したとき、どういう経緯かは知らないが、波江の弟であり最愛の人物でもある矢霧誠二の話になった。 「誠二は私が世界一愛してる男よ。そしてこの世界の誰より愛しているわ。誠二以外の人間なんて、くだらない」 『へえ、じゃあ波江ちゃんは弟に恋してるんだ!すごい、禁断の恋だね!頑張って!私応援するから!』 確か16歳の莉子も、似たようなことを言っていたように思う。 変わらないのだ。昔から、莉子は。変わらず人がいい。俺は自分でも自覚していて性格が歪んでいるように思えるが、莉子は人がいい。世渡り上手とも言える。甘えるのがうまく、上司からも気に入られやすい。その反面、隠された本性とも言うべきものはなかなかに俺と似ている。最低とまでは言わないが、そうとても歪んでいた。 「……」 柔らかい黒髪に触れると、くすぐったそうに身をよじった。それがなんだか懐かしくて、そういえば一緒に寝るときはよく髪をいじったことを思い出した。社会人になったいま、もちろん俺も莉子も家を出て、お互い別々の場所に暮らしている。遊びに来ることはよくあるが、泊まることまではあまりない。だからこそ本当に懐かしい。 「莉子、そっち行って」 『んん……』 莉子の体を中心から移動させ、俺もベッドに入った。すやすやと眠る片割れは、やはり懐かしい顔をしている。 そういえば7年前の俺は、23歳の莉子相手にいったいどうしているんだろうか。 そんなくだらないことを思いながら、俺は眠りについた。莉子の髪を触りながら、なぜだか今日はやけに眠りにつきやすかったことだけは忘れないような気がした。 back |