波江ちゃんと呼ぼうにもさすがにこんなに大人な女の人をちゃん付けで呼ぶには抵抗があり、結局波江さんという形でおさまった。波江さんに聞きたいことはたくさんあり、私はソファーの背もたれに身を乗り出しニコニコしながら話を聞く。 『ねえねえ波江さん、23歳の臨也ってどう?最低?一緒にいて疲れない?』 「最低、というか悪趣味ね」 『なるほどー!あ、そういえばさっき"誠二"って言ってたけどまさか波江さん浮気してるの?』 「まさか。誠二とあの男じゃ比べるのも失礼よ、誠二に」 『も、もしかして臨也の方が遊び相手…!』 「なわけないだろバカ」 低い声が聞こえた次の瞬間頭に衝撃が走る。『いだっ』頭を押さえつつソファーの上に落ちたものを確認したらピンクのマニキュアだった。痛い…と呟きながらそれを拾い上げ、光にかざす。 『何よ臨也、こんなに素敵な彼女さんいるなら言いなさいよね』 「生憎波江さんは彼女じゃないよ。ただの秘書」 『…ひしょ?』 「君も否定しなよ」 「肯定もしなかったわ」 『(そういえばそうだった…)』 なんだ、じゃあ恋人同士じゃないんだぁ。てっきり付き合ってるのかと……まあこんな美人な人が臨也と付き合うわけないか。 私はちょっとホッとした。臨也の1番が私じゃなくなる日なんていつ来てもおかしくないけど、やっぱり実際そうなるとつらいんだろうなぁ。 「波江は弟ラブ」 『弟ラブ?』 ブラコンってこと? 「誠二のことは私が世界で一番愛してるのよ。あの癇に障る女よりね」 まるで学生のような乙女の顔を見せ頬を赤くして言った波江さんだけど、"あの女"について語るときはとても怖い顔をしていた。こ、恋のライバルってやつでしょうか……。私波江さんのことよく知らないけどこの人だけは敵に回したくない… 『…ってか今の話の流れでいくと、波江さんの好きな人って弟?』 「ええ」 き、禁断の恋!? 『すっごーい!頑張ってね!応援するよ!』 「……、ありがとう」 あれ、波江さん今すごくいい笑顔見せてくれた。 ♂♀ 『い、ざ、やァー!』 時刻は午後10時半。波江さんは30分ほど前に帰宅している。今日はいろいろあったせいか眠気はやけに早くやってきた。ということで入浴も歯磨きも済ませたのだが(夕食は波江さんの作ったシチューだった)(とてもとても美味しかったです)(臨也の好き嫌いは相変わらずで私ニンジンいっぱい食べたよ)、大変な事件が起こった。 「うるさい」 『大変だよ!』 「何が」 『寝るところ!』 「は?」 『寝るところがないのっ!』 「………」 臨也は一人暮らし。当然ベッドなんてひとつしかない。となると私の寝るところがなくなり、自動的にソファーということになりそうな現実が迫っていた。 「…ソ」『ファーはイヤだよ』 「チッ。わがままめ」 『どうしよう…』 真面目な話、ソファーで寝れないこともない。ここのはふかふかだし、最終そこでだって寝れるはず。…まあ私は居候ですしね、まさか臨也にソファーで寝ろなんていくら双子でも言えませんよ。 「俺のベッドで寝れば」 『臨也はどこで寝るの?』 「まだまだ寝ないし」 『眠くなったらの話』 「…ま、てきとーに」 『いいよ。私ソファーで寝れるから』 「莉子が遠慮とかキモイから」 『なっ!わ、私だってそれくらい……』 ってかさすがの私でもここで遠慮しない図太さは持ち合わせてない! 『臨也ベッドで寝ていいよ』 「バカ。16歳の女の子をソファーで寝かせて自分だけベッドなんてどこの鬼畜?」 『じゃあ──あ、なんだ。簡単じゃん』 「え?」 『臨也のベッド、確かおっきかったよね』 「まあ」 『一緒に寝よう』 答えなんて簡単じゃないか。 (………)(?臨也?)(……莉子がいいなら別に俺は、うん) back |