双子ラプソディー | ナノ



俺は他人の行動を見るのは好きだけど、どうやら"片割れに関する他人の行動"については鈍かったらしい。それを今日初めて気づいた。



『臨也ーこのジュースあげる!』



ニコニコ笑う莉子の手には先週から自販機に導入された新発売のジュース。しかも飲みかけ。



「不味かったんだ」

『私はあんまり。買わなきゃよかった』

「莉子は新発売とか期間限定に弱いからな」

『多分臨也なら飲めるよ』



じゃ、と言い残してその場を去っていく莉子。うーん、なんか俺もあんまり好きじゃなさそうなんだけど?まあとりあえず一口。


ちゅー



「…う、え」



まず。



「あ、折原それ不味くね?俺すぐ捨てた」

「不味い」

「なんで買ったんだよ、バカだな」

「俺じゃなくて莉子が」

「折原妹?」

「うん。自分で買って飲んだら不味かったから俺に回ってきたんだよ」



それにしても本当に不味いな。なんて名前……



「あ、"ゴーヤチャンプルサイダー"だ」

「笹原。君これ飲めるの?」

「美味しかった」

「よし、あげよう」



こんな不味いものを美味しいという笹原の味覚はおいといて。
ジュースを差し出すと、もうひとりのクラスメートがニヤニヤしながら笹原の肩を組んだ。



「これ、折原妹の飲みかけらしいぜ」

「えっ!」

「そんなに驚く?ってゆーか人が飲んだのとかムリだったりする?」

「あー、こいつ折原妹に気あるから」

「…は?」



え、待て、笹原が?莉子を?莉子を好き?



「…君の目は節穴か?」

「ええ!?」

「莉子のどこがいいんだよ」

「そ、そりゃあ…折原は双子だから気付かないかもしれないけど、優しいし…可愛いし」

「……」



まじでか。もう一回言おう まじでか。最近残暑もようやくなくなってきて涼しくなったなんて思ってたらみんなの頭がおかしくなってしまった。
莉子って…あの莉子を?シャツ一枚で歩き回ったりする莉子を?お腹出してよだれたらしながら寝る莉子を?シャンプーで顔洗ったことある莉子を?



冗談だと言ってくれ。
……ま、莉子も外見だけ見ると確かに可愛いし笹原みたいなやつが1人くらいいてもおかしくないか。



「頑張れよー笹原!ライバルは多いぞ!」

「わ、わかってるよ」

「ちょっとストップ」

「ん?」

「ライバル多いって何」

「なんだよ折原、お前シスコンだったのか」

「違うから」

「折原妹けっこー人気高いぜ。先輩とかからも狙われてるみたい」



正直めちゃめちゃ驚いて"ゴーヤチャンプルサイダー"落としたよ。笹原があわてて拾ったけど。…莉子がモテてるなんて知らなかったなあ。



「…笹原」

「え?」

「あいつは、」



可愛くて優しいよ。そんなことお前に言われるまでもなく双子の俺が一番よく知ってる。



「やめといたほうがいいんじゃない?」



くだらない独占欲が、ずるりと音を立てた気がした。



(莉子はやらない)




 

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