夏の終わりが近づくと、なんとなく寂しい気持ちになる。夏休みという学生特権の最高な毎日も、今日でおしまい。つい最近始まったような気もするが、そんなことない。私はしっかり1ヶ月以上休んだのだ。もちろん、臨也も。 『臨也ってさー結構なんでもできるよね?』 「……」 『なんてゆーか、なんでもそつなくこなしちゃうってゆーか』 「…言っとくけど俺莉子の宿題は手伝わないよ」 『……』 「……」 『いざ「絶対嫌」……ハイハイ』 だれも臨也なんかに頼みませんよーっ!ふんだ! 新羅……今日はセルティが久しぶりに仕事休みとか言ってたっけ。普段あんだけセルティセルティ言ってるんだから邪魔するのは悪いしなぁ… シズちゃんとドタチンはどうだろう。終わってるのかな。ドタチンは終わってそーだけどシズちゃんはなんとなくまだなような気がする…。 「シズちゃんなら終わってるよ」 『え』 「ずいぶん早くに終わらせたみたい。残念だったねぇ、莉子?」 …嘘なのか本当なのか、疑うまでもない。本当だ。臨也の顔が物語ってる。「嘘だと思うなら聞けば?」なんて顔してる。くっそー…ムカつくな。いいよ、私1人でやるから!別にこれくらい… 『……』 これくらい… 『……』 これくらい…… 『……いざ、や』 「ん?」 『手伝ってくださいィィイ!!』 叫びとともに私は土下座した。恥?プライド?そんなもん知るかー!私は自分の通知表が大事なんだ!ってことで双子の兄貴に土下座するくらいたいしたことじゃ…… 「い、や」 ……は? あろうことか臨也は妹の土下座を価値ある物として見ず、語尾にホシマークがつきそうな勢いで否定してきた。いやって……まじかコイツ!私が土下座までしてるのにいやって…まじかコイツ!! 「莉子の土下座って宿題の度に見るから価値が下がってるっていうか、むしろ今はタダみたいなもんだよそれ。そんなお前のためにわざわざ俺が手伝ってやる得はない」 『…あんた今日性格悪いな、いつもの3倍は悪い』 「なんとでも言ってくれ。俺に手伝う気はないってこと」 大袈裟に手を持ち上げながら臨也はリビングから出ていった。大方自分の部屋にでも閉じこもりにいったんだろう、ぼっちめ。とりあえず扉にクッションを投げつけてから私は宿題地獄に飛び込んだ。終わらない、しかし万年学年次席(首席じゃないところは触れないでほしい)の力をなめるな!…頑張ればなんとか、なる。はずだ!うん! 『えーと、まずは数学からー…』 ──────…… 『……はっ!』 ね、寝てた!私ったらいつのまにかうっかり…… ってもう7時!?3時間も寝てたの!?ぎゃーすお風呂入らないと!先に全部済ましてから宿題には取りかかろう… ということで私は夜ご飯、お風呂、歯磨きをすごいスピードで終わらせた。全部で1時間かからなかったと思う、マジ私すごい。薄情者臨也はのんびーりしてたけどね。テレビとか見ちゃってさ。アイツほんとつまんなそうに見るんだよな、テレビ。何が面白くて見てるんだろ。 『(まあ臨也のことはどうでもいい)じゃあ私もう上あがるから、おやすみー』 「あら、早いのね。明日から学校だから?」 「まだ宿題終わってないだけだよ」 『南無阿弥陀仏臨也』 「おいなんだ今の」 バタン。ぼふっ。あ、あいつ扉にクッション投げつけてきやがった。ふん、子供か!ぶあああか!! 『お子ちゃま臨也はほっといて〜』 私はこの大量の宿題を片付けますか。幸い読書感想文は提出までに3日あるし、本の二冊や三冊なんて1日あれば十分。だからとりあえず明日提出プラス遅れたらめんどくさそうな先生のものからやっていこう。 『(ふむ、問題は簡単なわけね)』 すらすらと問題を解いていく。すらすらと、すらすらと。…いやまじですらすら解いてるんですよ?もうまさにすらすら、すらすら以外に言葉が見つからないくらいに。 …それなのに! 『(まっったく減らん…!!)』 どういうことですか!どうしてこんなに減らないんですか!おかしい。明らかにおかしい。まずこの量に私は先生からの悪意を感じます。 『大丈夫だよ私、まだ9時!夜は長い!』 そう、夜は長いのである。しかし1時間後睡魔が襲ってきた。宿題という強敵と闘っている私にまるで追い討ちをかけるかのように、睡魔はやってきた。んー、今寝るわけには…ってゆーか私昼寝したのに…。 ♂♀ ピピピピ、ピピピピ… 『ん……朝……』 目をこすりながら、カーテンの隙間から差し込む光を浴びる。そのあついくらいの光が朝を連想させた。朝かー……、朝… 『……朝ァア!?』 ぎゃー!宿題は!?宿題は!?終わってねーーよ!だって寝てるし私!気づいたら寝てたし私! 『って…あれ?何これ……』 あわてて机の上に散乱していた宿題のもとへ駆け寄ると、なぜか綺麗に並べられている。不思議に思って中を見てみるとどのページにも見慣れた文字が綴られてた。丁寧に、そして正確に。そういえば私いつの間にベッドに…?寝たのはイスに座ってだったのに。 こんなことするの、ひとりしかいない。 『……臨也、』 制服に着替えて宿題を抱え1階におりる。リビングの扉を開けると、臨也はいなかった。その代わりといっちゃあなんだけど、お母さんが驚いた顔を私に向ける。 「ずいぶん遅かったのね」 『臨也は?』 「もう学校行ったわよ?」 『え、はや』 「それより莉子ちゃん今から学校行くの?」 『うん。なんで』 「もう8時25分だから」 『……』 や ら れ た 。 (あのバカ一番嫌な時間に目覚まし設定しやがった!) back |