夏祭り、初めて臨也と花火を見なかったあの日から1週間が過ぎた。 あれから何も変わっちゃいない。臨也は佐藤くんのことを何も聞かないし、だからと言って怒ってるとかそんなわけでもない。 ただ本当にいつもどおりなだけ。 だからこそ私も、調子が狂うのだ。 『何か言ってくれるならまだしも、いつもどおりなんて一番やな展開。これなら責められる方がまだよかったよ』 「さあ、どうだろうね。君は意外と落ち込みやすいから臨也が気を遣ってるのかもしれないよ。双子の兄として」 『違うね!あいつがそんないいヤツなわけがない!絶対私が悩んでるの知っててやってるに決まってる。保証するよ、双子の妹として』 新羅は眼鏡の奥の目を細めて笑う。いったい何が面白いのか。こいつに相談した私がバカだったのか?…ってこれ新羅に相談するたびに思ってるな。 「僕はすぐに仲直りすると思うよ。君が言うように実際臨也が遠回しな嫌がらせをしているなら」 『……』 「おそろいのリストバンドだってしっかり腕についているわけだし」 『だからそれはいつもどおりを装ってるからよー!』 新羅だって臨也がどれだけしつこいか知ってるくせに…まさか楽しんでる?この状況を? 『新羅』 「ん?」 『あんまり適当言ってるとその眼鏡ブッ壊すからね』 「肝に銘じておくよ。それからそんな君にいい提案がある」 『くだらない提案なら殴る』 「なんかさっきから物騒だね。えーと、この前の夏祭り、花火が始まってちょっとしたら雨が降っただろ?」 『雨……そういえば降ってたような気がしないでもない』 「うん、その様子だと雨にも気付かないほど臨也とのことがショックだったのかな」 『だまれ。…で、それがどうかしたの?』 「もう一回やるんだよ、夏祭り」 『…もう一回?』 「そうそう。今年は大量にやる予定だったらしくて花火が余ってるんだってさ。だから今度の土曜日、仕切り直し」 仕切り直し…?夏祭りを?まじですか。さすが池袋、ノリがいいのかなんなのかやることが派手だ。 「ってことで、臨也でも誘えば?私が思うに、あいつなにげに独占欲とか強いから莉子を佐藤くんとやらにとられたみたいで不満だったから莉子の嫌がるようなことをするんじゃない?」 嫌がるようなことって言っても、ただいつもどおりなだけらしいけどさ。 そう言って新羅は、自らが入れた紅茶に口をつける。 それを聞いた私もティーカップをつかみ、考え込んだ。 あいつが…私が佐藤くんと夏祭りに行ったのが不満?独占欲? …ない。ないな。不満に思ってるとしたら約束を忘れてたことにちがいない。臨也は見た目と相反してしつこい。 『(…誘ってみるのも悪くないかな)ところでセルティはいないの?』 「仕事」 ♂♀ 『臨也』 臨也の部屋の扉を開け、中にいるそいつに声をかける。背中を天井に向けてベッドに寝転び、携帯をいじっている光景はすっかり目に焼き付いてしまった。 顔を画面から向けないのも、なれたと言えばなれたな。 「何?」 言葉だけを向ける臨也。 私は床に座り、黒いベッドを背もたれにした。 『夏祭りがね、もう1回あるの』 「らしいね」 『あのさー、だからさー。…一緒に行かない?』 「へえ、珍しい。莉子が俺を誘うなんて」 『…別に』 「でも俺先約あるから」 『えっ』 「莉子だって佐藤がいるだろ?」 『…佐藤くん、ね。ああ、うん…』 断ったんだけど、さ。 『…臨也』 「ん?」 『私、意地悪な臨也きらい』 「はは、何それ」 『……』 臨也の嫌な笑顔を思い浮かべながら目を細め、その苛立ちや"悲しみ"を抑え込み部屋から出た。 きっと臨也は今も笑っているんだろう。私のこんな気持ちもわからずに。 意地悪な兄 back |