『わー……雨』 ザーザーとアスファルトに降り注ぐ大量の雫。午前中はあんなにも晴れていたと言うのに、正午には鉛色の空となり、今に至る。 今朝の天気予報で降水確率50%と聞いていた私は、傘を持ってきていなかった。ゆえにこの昇降口で立ち止まっているのだ。 『(…やむまで待つか)』 さすがにこの雨じゃ走って帰るのもつらいところだ。化粧をしてるわけでもなく髪だって巻いたりとかしてない私にとっては、明日も着るこの制服が濡れてしまうことが何より嫌だった。 「莉子じゃないか」 じっとりとしたこの空気には似つかわしくない声が、私の名を呼んだ。 『…臨也』 「また傘持って来なかったのか」 『だって…』 「なーんで降水確率50%だと持っていかないかなぁ」 『……降らない確率も50%じゃない』 「降る確率も50%だって」 『はいはい。そういうあんたはどーせ持ってきてるんでしょ』 「まあね」 バサッと、黒の傘を広げた臨也。 「じゃ、まあ頑張って」 『ん』 1人歩いていく黒の学ランを見ていると、少し離れたところから小さな声が聞こえてきた。 「一緒に入ったりしないんだ」 「やっぱり兄妹でもさすがに無いんだね」 「ってゆーか臨也くんが嫌でしょ。あんな妹」 「ぷぷ」 おーい、全部聞こえてるよー。や、別にいいんだけどさ。なれてるし。ただちょっとくらい気配りを示すとかなんとかね、もうちょっと気をつかおうよ。 『(臨也が入れてくれるわけない)』 そんくらい、知ってるっつーの。 ……ま、ちょっとくらい入れてくれるかなーって思ったけど。ほんのちょっと、だけね。 『……』 もう、いーや。 足を踏み出した。 雨が制服をどんどん濡らしていくけど、気にしないことにして。とにかく私は走ったのだ。 家までそんなに遠くはないのだからと言い聞かせて、バシャバシャ音を鳴らして足を動かした。 ───「ってゆーか臨也くんが嫌でしょ。あんな妹」 『……』 ふと彼女の言葉が頭をよぎって、私の足は止まった。 …別に、気にしてなんか、いない。ただちょっと寂しい気持ちなだけで。理由は知らないけど…寂しいだけ。 靴の先を見ながら鼻の奥がツンとする感覚になっていると、パラパラと雨をはじく音が耳に入った。 黙ったまま顔を上げると、そいつの紅い目が私の視界をとらえた。 『……』 「びしょ濡れ」 『……』 「なんで泣いてるんだよ」 『…泣いてない。臨也こそなんでここにいるの。さっき帰ったでしょ』 「妹を心配して何が悪い?」 『嘘つき』 心配なんてしてないくせに。 「帰ろう」 『…ん』 臨也の右肩がびしょ濡れだってことに気付くのは、私たちが家にたどり着いたとき。 今日のおやつのプリンを少しだけわけてあげようと思った。 雨の日の私とあいつ (雨の日も悪くないね)(…そんなことない、もん) back |