双子ラプソディー | ナノ



「薄情者は莉子だろう?俺に何も言わずに来ちゃうんだからさ。少しくらいお兄ちゃんを頼って欲しいな」

『…私のことなんてどーでもいいくせに来たんだ。珍しい』

「なんか拗ねてるように聞こえるよ?莉子ちゃん」

『別にー』



臨也が一歩、一歩と近づいてきた。タンタンとコミカルな音を立てて。


そうして私の隣に立った臨也。



『……あー、ごめんね?私の言ったことウソになったみたい。臨也来ちゃったよ。これは申し訳ないことをした。謝るよごめん』

「なっ、いざやくんっ…!」

「ってゆーかやばいよっ、あれ平和島静雄…!」

「"あの"!?」

『あのだかこのだか知らないけど、来神に平和島静雄は1人しかいないよ。何なら自販機とか持ってもらう?』

「勝手なこと言ってんなおい」

『やっぱシズちゃんの前だとドタチンも新羅もキャラ霞むね』

「ほっとけ」

「静雄の前じゃねぇ」

「俺はどう?シズちゃんの前でもキャラ立ちしてる?」

『心配すんなちゃんとウザいから』



……っと、あんまりこっちだけで喋っちゃ彼女たちに悪いね。そうして床に座り込んでしまった彼女たちに視線を向ける。



「じゃあここで、クイズをしようか」

「クイズ…?」

『(あ、臨也の野郎主導権握りやがった)』

「そう。とっても簡単なクイズだよ」



もちろん参加するよね?と臨也が女の子たちに語りかける。人に優しい笑顔、こんな笑顔の時はだいたい悪いこと考えてる時だ。そしてこの笑顔に騙されて、この子たちはきっと簡単に首を縦に振るだろう。


……ああ、こんなふうに。



「それじゃあ問題です」



臨也が座り込む女の子たちの周りを円を描くように歩く。



「君たちがこの場で肉体的かつ精神的な痛い目を見ずに済む方法は何でしょう?」

「…え…」

「選択肢は3つ。まずいち、何も言わずに化け物が見張ってる入り口から立ち去る」

「に、ごめんなさいと謝ってこの場から立ち去る」

「さん、スカートのポケットに入ってるそのカッターで俺たちに立ち向かう」

「!な、なんでそれを…!」

『……(まじかよ)』

「さあ、どれを選ぶ?」



彼女たちはきっと2を選ぶだろう。だけど臨也の言った3つの選択肢はどれも結局彼女たちが痛い目を見るものだった。

1を選べばシズちゃんに投げ飛ばされるのがオチ(まあさすがに女の子相手にそれはないかな)。
2を選べば後々臨也に裏で手回しされて停学や退学か何かにされるだろう(もしかしたらもっとひどいことに、)。
3を選べばシズちゃんやドタチン、臨也を一気に相手にすることとなる。カッターなんかでこの人たちに勝てるわけがない。



「……」

「どうして黙ってるの?もしかしてちょっと難しかったかなぁ。それじゃあもうひとつ選択肢を追加してあげようか」

「…な、なにを…」

「よん、」



臨也が口を開いた女の子の前でしゃがみ、いつものナイフを伸ばし先端を向けた。



「俺の双子に土下座して謝って、二度としないって誓ってくれたら許してやるよ」



懐かしい、言葉だ。



───「俺の双子に土下座して二度としないって言うなら許してあげるよ」



少し離れたところで、新羅が「それじゃあ邪魔者は消えようか。屋上で待ってるからねー」と言ってるのが聞こえた。
それでも私は、ただボーッと、臨也の横顔を眺めるだけ。



「ご、ごめっ、なさっ…!」

「…俺にじゃないよ。俺の双子の妹」

「ひっ…」

『…いいよ、臨也。土下座なんてさせなくても。こんだけ泣いて惨めな顔を見せてくれたら私もスッキリしたし。だからあんたたちははやくどっか行って』

「…ふーん。ま、莉子が言うなら俺はそれでいいけど」



ナイフをしまった臨也を見て、女の子たちはおぼつかない足取りで科学室から出ていった。



『ふうー、疲れた』

「お疲れさま」

『……』

「どうして知ってるか、って聞きたそうにしてるけど聞く?」

『…や、情報ラブなあんたに聞くのは愚問だよ』

「そ」


短い返事をした臨也は、机に座る私の肩に手をおき、ぐっと押しやる。身体のあちこちが痛いから抵抗なんてできなかった。



『…っ、…なに』

「ずいぶん痛い目に合わされたみたいだね」

『…ちょ、やめ、』

「痣できてる」



そう言ってお腹にできた痣をその手でさする臨也。臨也の手はひんやりしてるから、身体がビクッと反応した。



「何人きた?」

『え、』

「男が来ただろ」

『…2人』

「どのくらいヤられた?」

『…ヤってないよ』

「へえ」

『なんか数発蹴って出ていった』

「じゃあそいつらには何をしてやろうか」

『……もういいよ。臨也、助けてくれたし』



ぐ、と臨也が指に力を込める。その痛みに思わず顔が歪んだ。なるべく言葉には出さず、目を細めて耐えた。



「俺もけっこうムカついてるんだよ」

『…なんで』

「自分の妹がこんなふうにやられていい気分なわけないだろ」

『…あんたにもそんな感情あったんだ』

「失礼だなぁ。ここ押すよ」

『っ、やめっ、ごめん!』



このやろう…!その脅しはずるいだろう!ってゆーかすでにちょっと押し気味だし!



『っ、とにかく!』



体中の痛みをこらえて、臨也の身体を押しやる。予想外に簡単に離れたソイツを不思議に思いながらも、言葉の続きを口にした。



『もうアイツ等には何もしなくていいから!』

「…それは俺の」『勝手とか言わせない』

「…はいはい」

『わかった?』

「うん」

『よし、じゃあおんぶして』

「なんか上からじゃない?」

『怪我人だからね』



素敵で無敵なお兄ちゃん

(シズちゃんと新羅とドタチンにも今日はありがとうって言わなきゃ)(シズちゃんはドア壊しただけだしいいんじゃない?)(もーまたそんなこと言う)




 

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