「本当、つくづく君たち双子の仲の良さには驚かされるよ」 GWも明けたある日の休み時間、新羅がそう言った。それに対して臨也は嫌な顔を浮かべ、ストローを口から離す。 「この年の男女にして普段から仲良いとは思ってたけど、まさか色違いのリストバンドまでしてくるなんて」 「『それは偶然』」 「息までピッタリ!」 臨也が新羅を殴った。痛そうだ。 ♂♀ なんてゆーか、仲がいいだとかいくら言われても、やっぱり自身のことであるとあまり実感がない。だってほら、私にとっちゃコレが普通だからさ。 「べたべた見せつけてんじゃねーよ」 「たかが双子の分際で調子のってんの?」 「まさか自分がお兄ちゃんのいちばんだとか思ってたりして」 そうそう、普通なのよ。別にこっちはべたべたしてるつもりはないし、調子にだって乗ってない。当然、自分がアイツのいちばんだなんて思うはずもなく。ただ私は普通に、すごく普通に接してるだけだもん。 「わかってるよねえ?」 「あんたは臨也くんのいちばんなんかじゃない」 「だって実際、こんだけあんたがボコられてんのに臨也くんは来ないもん」 ……だからなに。臨也が、たった1人の妹のためにわざわざ自らの足を動かすわけがない。きっと今ごろ家でのんきに携帯でもいじってるんだろう。私の片割れはそういうやつだ。 『…あんたたち臨也のこと好きなの?』 「好きだよー。ねえ?」 「うん、ちょー好き」 『なんで?性格最高に悪いのに』 「だってかっこいいじゃん」 「あんなかっこいいやつ珍しいよ。それなら多少性格悪くても目ェ瞑るよねー?てか臨也くん優しいし」 『…ふーん』 わかってないなぁ。臨也のこと、全然わかってないよ。あの臨也だよ?顔が良くたって性格の悪さが上回っちゃうくらいだよ。 そう思ってふっと笑うと、蹴られたお腹が痛んだ。 「さ、無駄話はそのくらいにして。続きしよっか、莉子ちゃん?」 「だぁーいすきな臨也お兄ちゃんも来ないしね」 「あ、ちゃんと見えないとこ蹴ってるからね?臨也くんに見られちゃ困るしさ」 ……本当、バカな人たちだ。臨也のことを全くわかっちゃいない。アイツの性格の悪さを、全くわかっちゃいない。 私がそんな性悪の血を分けてるってことも。 『…あー、ほんっと痛い。まじありえないっつの。見えないとこに蹴ってるからねって、私が臨也に見せれば終わりじゃないの?』 「はぁ?」 『別に臨也にくらいなら裸でも平気だし家帰ったらソッコー見せてやろうか』 「なっ、何あんた……脅しのつもり?」 『ってゆーかもうさ、ほんっとバカだよね。普通私があんたたちに呼び出されて誰にも言わずのこのこ来ると思う?ありえないでしょ』 「っ、まさか臨也くんにっ…!」 『残念でした。臨也は私がこんなふうに呼ばれたって興味もないだろうし助ける気も絶対ない。妹1人どうなろうが知ったっこっちゃないんだよ、アイツは。だから私も臨也には言ってない』 そう言い切ると、なぜか少しほっとした顔を見せる女の子たち。 その顔を見てほくそ笑み、私はスカートについた埃を払ってから机に腰掛け足を組んだ。 『あーもう、だからさっき言ったじゃんバカだねって!どうして今安心したの?臨也が来ないってわかったから?こんなことしてるのが臨也にバレないってわかったから?甘い甘い、甘いよ!甘すぎるね!だから嫌なんだよ、あんたたちみたいな人間は。私は臨也と違ってヒトラブなんて言わないし?興味ないからあんたたちがどうなろうが知らないし関係もない』 「なっ、何が言いたいわけ!?」 「結局あんたは1人じゃない!それであたしたちに勝てるわけないでしょ!」 『あははっ!どうやら記憶力は欠けてるみたいだね。私さっき言ったでしょ、臨也"には"言ってないって』 「まさか他のやつ…!?」 『ピンポーン』 軽快なその言葉の直後、ここ、科学室の扉が派手な音を立てて壊された。 それを一瞥してから人差し指を頬の横に立て、目を見開く彼女たちに話しかける。 『臨也には言ってないよ?これ本当。だって来てくれないもん。薄情者だから。でもさぁ、いるんだよ。私には大好きな友達が』 『あんたたちのだぁーいすきな臨也じゃないけど、』 『甘くて優しい、あたしのだぁーいすきなお友達』 にっこりと笑いながら言葉を紡いだ。すると扉が蹴破られた方から低い低い声が聞こえてくる。 「莉子、生きてるか?」 「またムリしたみたいだね。それにしてもやっぱり君は臨也の双子だなぁ」 「…見た感じ立場逆なのは気のせいか?」 派手な金髪に長身。 漆黒の髪に眼鏡。 オールバックと学ラン。 この3つの影に遅れて、また1つ影が壊れた入り口から入ってきた。 「誰が薄情者だって?ひどいなぁ、莉子」 アイツの血を分けた私です (それは見なれた短ラン) back |