「妹だからって調子に乗ってない?」 それは、2月のある日の放課後に聞いた話。 「乗ってる乗ってる。なんか明らかに妹は恋愛対象として見てるよね、お兄ちゃんのこと」 「見てる!こないだだってなんか2人でジュースの飲み合いとかしてたし…」 「お兄ちゃんがかわいそうー!」 忘れ物を取りに教室へ入ろうと扉に手をかけたところで、そんな会話が聞こえた。そして私の手はピタリと止まることになる。 「絶対お兄ちゃんは嫌がってるよねー。ブラコンも大概にしろって感じ」 「ほんと気持ち悪い。いい年してさぁ」 「彼氏とかいたことないんじゃない?」 「ウケる!」 これは、うん、多分わかった。私の予想は当たってると思う。 「どうする?ちょっとあの子しめる?」 「それもいいけど…どうやって?」 「軽く睨みきかせて言えばビビるって」 「確かに。これでやっと折原くんがあの妹から解放されるね」 …ほーら。やっぱり私のことじゃん。本当、こーゆー人って何歳になってもいるもんだね。あいにく私は小学校の頃からそう言われてきたんで慣れっこですよ。さすがに恋愛対象として見てるとまでは言われたことなかったけど。つーか実の双子の兄貴に恋愛感情を持つなんて、私はありません。あんな兄貴に惚れてたら気持ち悪いし。 『(かえろ)』 臨也のせいで、忘れ物放置するはめになったよ。 ♀♂ 『臨也』 「あ、おかえり莉子」 『ただいま。…あのさ、ちょっとしばらく学校で私に話しかけないで』 「は?」 片割れの部屋に入れば臨也はベッドに寝転びポテチを食べながら本を読んでいた。そして、イスに腰掛た私の言葉に顔を向ける。 『だから話しかけないでって言ってるの』 「なんで?」 『うーん、ちょっとね。とにかく少しの間は学校で喋らないって約束してよ』 「……」 『面倒なことになりそうだから、お願い』 何も言わないけど臨也は私が今日みたいなふうに言われてることを知ってる。中学の頃呼び出されたことがあって、その時臨也が助けてくれたことがきっかけに知ったんだと思う(もしかしたらもっと前から気付いてたかもしれないけど)。 「誰?」 『内緒』 「…ま、気が向いたら約束するよ」 『ありがとう』 「莉子も大変だなー」 『誰のせいよ誰の。臨也のオレンジジュースも飲んでやる』 「地味」 私としては、臨也に気付かれなきゃしめられようがなんでもいい。ただ小さい頃から顔には決して出さないけどひどく心配性な私の片割れを、心配させたくない、ただその一言に尽きた。 ひどく心配性な彼を (莉子)(なに)(バカな顔してるよ)(うっさい) back |