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「黄瀬くん、黄瀬くん」

「ん?」

「わたしたちこんなとこにいていいのかなぁ」

「さあ、いいか悪いかで言ったら、ダメなんじゃないっスか?」


6月18日火曜日、午前10時20分。
わたしと黄瀬くんは名前も知らない公園のベンチにいた。制服に身を包んで、学校なんてサボっちゃって。そりゃ、いいか悪いかなんて決まってる。わたしはサボったことなんてなかったから今頃親に連絡でも行ってるのだろうか、なんて考えて。

隣に座る黄瀬くんが「あっちー」なんて制服の胸元掴んでパタパタあおぐ。確かに今日は暑い。空を仰げば怖いくらいの青。雲一つない、快晴だった。


「(ほんとによかったのかなぁ)」


今日学校サボろう、って言い出したのは黄瀬くんだった。
わたしとしては、嬉しい半分、申し訳ない半分。今日は黄瀬くんの誕生日で、彼を独り占めしたいと思う反面ほかの黄瀬くんファンの子たちには悪いことをしたなと思う。きっとたくさんの子がプレゼントを用意して、待ってたはずだ。


「明日みんなに殺されるかも…っていうかリアルに言うと呼び出しとか…」

「そうっスねぇ、オレらが2人そろって休んだら誰でも予想つくだろうし?」

「…もう、どうして意地悪言うの」

「ははっ」

「ほんと、いじめられたら黄瀬くんのせいだからねー」

「そしたらオレが守るけど」

「………」


またそういうこと言って、ドキドキさせて。黄瀬くんはやっぱり少し意地悪そうな顔をしてわたしの顔をのぞき込む。暑い暑い、って顔に集中した熱を払うように手であおいだら笑われた。お見通しなんでしょうね、ああいやだ。


「黄瀬くん、携帯見た?」

「見てない。なんで」

「ぜったいメールとかやばいよ」

「わかってるから見れないんスよねぇ…あ、見る?」

「……や、いい。見ないで」

「りょーかい」


ごめんなさい黄瀬くんファンのみんな。彼のお誕生日に彼とサボって2人でいられるわたしは、いまとっても幸せです。彼女の特権というやつですか、黄瀬くんの彼女でつらいこともたくさんあったけど幸せなことのほうが、何倍もありますね。


「ところで、オレ今日誰からも誕生日プレゼント貰ってないんスけど」

「まあ、学校行ってないもんね」

「家族からもまだいいって断ったんスよね」

「うん」

「なんでかわかる?」

「え、知らない…」

「一番に貰うのは、」


わたしがよかったから、って、黄瀬くんが言って。その言葉にまた胸がきゅっとなって。スカートの裾を握りしめ、照れ隠しに笑ってみせた。地面におろしていたスクールバッグを拾い上げ中を探る。


「…あの、先に言っとくけどたいしたものじゃないよ?」

「うん」

「ほんと、気に入るかもわかんないし、」

「うん」

「あっ、もし気に入らなかったら捨ててもいいから!」

「うん」

「へ、返品は悲しいからなるべくやめてほしいけど…」

「いいから早く出せよ」


たまに命令口調になる、黄瀬くん。
わたしはこれがなにげに好きだったりする。

おそるおそるプレゼントを差し出すと、彼は簡単にそれを受け取り包装を解いていく。


「…あ、ピアス」


心臓のドキドキが止まらない。緊張する、うわあ、心臓出てきそう、どうしよう。


「……」


黄瀬くんがピアスの入ったガラスケースを太陽にかざす。次に彼から出る言葉は、いったいどんな。膝の上でぎゅっと拳を握りしめ目をつぶる。

どうか、せめて返品だけは勘弁してください!


「……どう?似合う?」


眩しいくらいの笑顔。嗚呼、似合わないわけがないのに。


「似合う、すごく、かっこよすぎ、ばか」

「ならよかった」

「もう、ほんとかっこいい、黄瀬くん」

「へへ」

「……ずるい」

「ねえ、もう一つ欲しいものあるんスけど」

「なあに」

「キス」


熱くなる顔。にこにこ笑う彼。
一睨みしてみせて、それから向き合って。目、閉じて。そう言うと「今日は閉じないっス」なんてまたそんなこと言って。この綺麗な顔ひっぱたいてやりたい、とか考えつつ、黄瀬くんの肩を掴んで、思い切ってしたキスは、キスなんて可愛いものじゃなく唇と唇の衝突みたいだった。思わず笑った黄瀬くんの顔は純粋な笑顔で、わたしはこれが一番好きな表情で。だけど今度は後頭部に手のひら回され引き寄せられ、ふっかーーいキスをするあたり、やっぱりこいつは意地悪なんだなぁ、なんて、酸欠の脳で考えた白昼。


(好きっスよ)(…わたしだって)(知ってる)(う、うるさい)
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